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社説・コラム

天風録 『大統領の危ない命令』

 名優ハンフリー・ボガートが主演した「ケイン号の叛乱(はんらん)」なる古い映画がある。太平洋戦争中、米海軍の1隻の掃海艦はポンコツで、艦長は無能だった。そこで部下たちは、こうもひどい指揮官なら軍紀に照らしても許されると、反乱を起こす―▲そんなセピア色の世界がよみがえる外電がきのうの本紙にある。米戦略軍の司令官が先日、トランプ大統領から核攻撃の命令を受けても違法と判断したなら従わないと公言した。むろん、反乱というより諫言(かんげん)だろうが▲その記事の隣には<B52日本横断し訓練>の見出しが躍る。B52は核兵器を積める米空軍の戦略爆撃機。実際には半島有事に備えた「核抜き」の訓練だったが、きなくささは増している▲キューバ危機では、沖縄に配備されていた核巡航ミサイルが、あわや「敵国」に発射されそうになったという。当時の高官は「核戦争を防いだのは運だった」と後に証言した。一方で、現場の軍人たちは「撃てと命じられればそうした」と振り返る▲「ケイン号の叛乱」は軍法会議に舞台を移し、丁々発止の法廷劇に様相を変えていくが、今の時代もひどい指揮官が不幸を招くことはある。古い映画を見て頭を冷やすといい。

(2017年11月21日朝刊掲載)

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