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連載・特集

核なき世界への鍵 前進のために <3> 北東アジアの安全

非核地帯化へ対話から

 「ヒロシマ・ナガサキ条約と呼びたい」。そう言って、長崎市の田上富久市長が核兵器禁止条約への参加を政府に迫った8月9日の平和宣言。その具体策として、「北東アジア非核兵器地帯」の検討を求めた。1996年以来、歴代市長がほぼ一貫して盛り込む。長崎原爆資料館で今も配る式典冊子には解説文が付く。館内のパネルでも紹介している。

 日本、韓国、北朝鮮が核を持たず、この3カ国に対して保有国の米ロ中は核攻撃・威嚇をしないと約束する。「3プラス3」とも呼ばれ、長崎大核兵器廃絶研究センターは一昨年、法的拘束力を持たせるための具体的な提言書を発表した。

 非核化に限らず、他の施策もひっくるめて相互の安全を図ろうというのが特徴だ。「休戦」状態の朝鮮戦争は終結。核への傾斜や、地域の不安定化に絡む通常兵器などの問題も扱う安全保障協議会設置も含む協定を締結する。北朝鮮に化学兵器禁止条約加盟を義務づけ、核以外の大量破壊兵器の脅威もなくす。

 センターは「ナガサキプロセス」と呼ぶ非核化実現へ、専門家の民間対話を昨年開始。今年6月は、北朝鮮関係者が来やすいよう国交があるモンゴルで開いたが、参加はなかった。今後もロシア開催などで探る。関係国の政府高官も個人として参加する場を目指し、政府間対話につなげたい考えだ。

 「厳しい安全保障環境」を挙げて禁止条約に背を向ける日本政府に対し、鈴木達治郎センター長は構想の検討意義を訴える。「核兵器がなくても安全が保たれる仕組みをつくれば、禁止条約に入れる。被爆者の声に応えて非人道性を柱とした条約の趣旨にまず賛同し、政策転換に乗り出す好機だ」

 一方で、政府は「必要なのは対話ではない」(安倍晋三首相の国連演説)。核超大国の米国と並んで「圧力」を強め、北朝鮮の核放棄を先とする。政治家からは、米国と核を共同運用する「核共有」を視野にした国内配備検討を求める声が聞こえてくる。「北朝鮮が米国本土を攻撃する核を持てば、報復される危険をさらしてまで米国が日本防衛に核を使う信頼性がゆらぐ」という一部の核抑止支持者に同調論がある。

 韓国の機運もいまひとつという。10月末、北東アジア非核化へNPO法人ピースデポが東京都内で開いた集会。ソウル大の徐輔赫(ソ・ボヒョク)教授は核保有に賛成5割前後、反対2割前後で推移する過去5年の世論調査のグラフを示し懸念を述べた。「韓国の核武装世論は軍備競争と緊張激化を招くのみ」

 鈴木センター長は「日本など関係国は戦争を避けるために、軍事対立を和らげる非核兵器地帯化のような選択肢を追求する態度を示すべきだ。外交努力を求める市民の声が高まってほしい」。非核地帯化は、核兵器のない世界へ非核保有国が主導できる策の一つ。日韓が主導して北朝鮮を巻き込む意志が重要となる。

 機運醸成へセンターは広島との連携強化を期待し、広島市立大の研究者と、安全保障分野での民間対話に関する共同研究を進める。23日、都内でシンポジウムを開き、研究成果を発表する。(水川恭輔)

(2017年11月23日朝刊掲載)

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