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社説・コラム

社説 テロ支援国家再指定 手詰まり感は否めない

 米政府は北朝鮮を「テロ支援国家」として再指定した。一見すると米国の強い姿勢を見せつけたようだが、中国による米朝の「仲裁外交」が不発に終わったことを受けた措置のように映る。つまりは北朝鮮を取り巻く国際社会の手詰まり感を示していると言わざるを得ない。

 この再指定は、ことし2月にマレーシアで金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の異母兄金正男(キム・ジョンナム)氏が殺害された事件で猛毒の神経剤が使用されたこと、すなわち化学兵器を使ったテロ行為であることが決め手になったもようだ。

 北朝鮮に拘束されていた米国人大学生が昏睡(こんすい)状態に陥り、6月に解放後、死亡した事件も判断材料に含まれただろう。トランプ大統領にとっては訪日して日本人拉致の非道を再認識したことも、金体制批判を強める結果になったのではないか。

 北朝鮮のこれらの行いは許し難いものであり、再指定は無理からぬ措置かもしれない。ただし、トランプ氏の「決意」のほどは分かるにしても、外交上どのような腹積もりがあるのか、そこは定かではない。

 北朝鮮は核・ミサイル実験の実施を9月中旬以降控えている。中国の習近平国家主席の特使が訪朝し、対話の糸口を模索して帰国したばかりでもある。その直後の再指定となれば、中国の外交努力は何のためか、という疑問が浮かんでくる。

 再指定について中国外務省報道官は「朝鮮半島情勢は複雑で敏感であり、関係各国は緊張緩和に役立つことをするよう望む」と述べた。米国への不快感をにじませてはいるが、その趣旨自体は正論といえよう。

 ロシアを舞台にした北朝鮮と日本などの外交官の接触も、この秋に行われた。再指定は、これら外交活動が実を結ばないと見切りを付けての決定だろうか。米国は既に制裁を拡大しており、再指定は象徴的な意味合いが強いと思えるが、それだけに北朝鮮があらためて強硬な姿勢に傾く危惧は否めない。

 北朝鮮はこれを口実に、再び弾道ミサイル発射に踏み切る可能性がある。2カ月間挑発に出ていないが、制裁の効果があってのことではあるまい。

 日本にも重大な影響を与える軍事衝突の懸念があろう。問題は国民が政策の是非を判断する材料が少な過ぎることだ。

 安倍晋三首相は再指定を受けて「北朝鮮に対する圧力を強化するものとして歓迎し、支持する」と述べた。「あらゆる手段を使って圧力を最大限にし、北朝鮮から対話を求めてくる状況」をつくると言う。

 だが、そのための効果的な方法はどうあるべきか。もし北朝鮮が対話を求めてこなければ、軍事介入に一挙に進むのだろうか。こうした点が明らかになっていない。トランプ氏との先の首脳会談で、北朝鮮問題について具体的にどんな議論がなされたかも説明すべきだ。

 先日起きた北朝鮮軍人の韓国亡命を巡っては、追ってきた北朝鮮兵士が南北軍事境界線を越える「朝鮮戦争休戦協定違反」が発覚した。緊張が高まれば、こうした事件が大規模な衝突に発展しないとも限らない。

 来年2月には平昌冬季五輪も控えている。日本政府は韓国政府と緊密に連携しつつ、北朝鮮の暴発を押しとどめる外交戦略を明確にしなければなるまい。

(2017年11月24日朝刊掲載)

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