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新基準で不認定 どう判断 原爆症訴訟 広島地裁きょう判決 司法での救済 進むか

 被爆の影響で心筋梗塞や甲状腺機能低下症などを患っているのに原爆症だと国が認めないのは不当として、広島県内などの被爆者24人が、国に認定申請の却下処分取り消しや1人当たり300万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が28日、広島地裁である。半数の12人は、提訴後の2013年末に国が見直した新たな審査基準で認定されており、新基準でなお認められていない12人の却下処分の妥当性と全員の国家賠償を司法がどう判断するかが注目される。(有岡英俊)

 原爆症の認定を求める12人は、広島市や廿日市市、福山市などの73~91歳の男女(女性1人は84歳で死去し遺族が継承)。訴状などによると、1945年8月6日かその直後に爆心地から1・2~4・1キロにおり、直接被爆するか入市被爆した。

因果関係が争点

 71年以降、甲状腺機能低下症や心筋梗塞などを発症し、原爆症の認定を申請。11人は5疾病を積極認定とした2008年の基準で却下され、13年末に被爆者救済の範囲を広げるために定めた新基準でも認められなかった。残る1人は新基準後に申請して却下されたため提訴した。

 新基準は甲状腺機能低下症や心筋梗塞など4疾病について、被爆地点までの距離や立ち入り条件を、「爆心地から約2キロ以内で被爆」「原爆投下より翌日までに同約1キロ以内に入市」は積極認定などと変更。心筋梗塞など三つの「非がん疾病」については、証明が難しい「放射線が原因だと認められる」との条件を削除した。裁判では、この基準を踏まえた原告の疾病と原爆との因果関係、申請時の治療の必要性の有無が主な争点となっている。

 原告12人はいずれも積極認定対象の疾病を主に患うが、10人は被爆距離の基準を満たしていない。しかし、各原告は発熱や下痢、脱毛など被爆直後の急性症状やその後の症状を訴え、「国は放射線の影響や、黒い雨など放射性降下物による内部被曝(ひばく)の影響を過小評価している」などと主張。診断医の証言なども踏まえ、疾病は原爆が原因で現在も治療が必要と訴えている。

 これに対し国側は、甲状腺機能低下症を発症した原告に対しては「加齢とともに発症し得る。血液検査の数値などからみて特異な点はない」などと反論。心筋梗塞や白内障の原告についても「加齢や喫煙などが発症の原因」「入市経路が明らかでない」「治療の必要性がない」などとして放射線起因性などを否定している。

取り消し7割強

 今回の訴訟は、08年の基準緩和後に被爆者122人が全国7地裁に提訴するなどした「ノーモア・ヒバクシャ訴訟」の一環。13年末の新基準でも認められなかった原告87人のうち、57人に地裁・高裁で判決が出ている。7割強に当たる43人の却下処分が既に取り消されており、被爆者の高齢化も進む中、司法による救済がさらに進むかどうかが注目される。

<原爆症認定を巡る経過>

1945年 8月 広島、長崎に原爆投下
1957年 4月 旧原爆医療法施行。原爆症認定制度始まる
1995年 7月 被爆者援護法施行
2001年 5月 厚生労働省が放射線による発症リスクを数値化した「原因確率」による認定基準を決定
2003年 4月 札幌、名古屋、長崎の各地裁で初の集団提訴
2006年 5月 全国の集団訴訟の初判決で、大阪地裁が9人全員を原爆症と認定
     8月 広島地裁が41人全員を原爆症と認定。各地の裁判所で国の敗訴相次ぐ
2008年 3月 厚労省が原因確率を使わず、がんや白血病など5疾病を積極認定する新基準を決定、4月から運用
2009年 3月 広島地裁が国家賠償を命じる判決
     6月 慢性肝炎・肝硬変と甲状腺機能低下症を積極認定に追加   8月6日 政府と原告側が全面解決の合意
2010年 8月 新たに大阪地裁に一斉提訴
2013年 12月 心筋梗塞など4疾病について、距離条件を狭める新基準を決定
2015年 5月 広島地裁が白内障を患う原告4人のうち、2人を原爆症と認定

原爆症認定制度
 原爆による放射線で病気になり、治療が必要な状態にあると国が認めた被爆者に、月額約13万9千円の医療特別手当を支給する。認定を巡る集団訴訟で国側敗訴が続いたため、2008年に爆心地から約3・5キロ以内で被爆するなどの一定の条件で、がんや白血病など五つの特定疾病を積極的に認める審査基準を導入した。09年には特定疾病に甲状腺機能低下症と慢性肝炎・肝硬変の2疾病を追加。13年末にも甲状腺機能低下症や白内障など4疾病の被爆距離の条件を変えるなど基準を見直した。

(2017年11月28日朝刊掲載)

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