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連載・特集

イワクニ 地域と米軍基地 艦載機飛来 <1> 極東最大 拠点性増す

情報混乱 連携に不安も

 米軍再編に伴い岩国基地(岩国市)が大きく変貌している。空母艦載機の移転が進み、来年5月には約120機を抱える極東最大級の米軍基地となる。北朝鮮情勢が緊迫する中、その役割は増す一方で、騒音被害や事故に対する住民の不安も強まる。巨大基地イワクニに地域はどう向き合うべきか。岩国から、地域と米軍基地の在り方を考える。(久保田剛、和多正憲)

 鈍色のFA18スーパーホーネット戦闘攻撃機が次々と岩国基地に滑り降りる。これまで何度も繰り返されてきた着陸の風景。この日はしかし、重みが違う。艦載機の移転が本格化した瞬間だった。

 「日本防衛と地域の安全へのアメリカの責務を支援する」「最も新しく有能な部隊を前方展開させる」―。在日米海軍司令部(神奈川県横須賀市)が出したコメントは、「日米同盟の深化」をうかがわせた。

 事実、日米が米軍再編に合意した2006年以降、航空戦力の岩国への集中が進む。14年8月、普天間飛行場(沖縄県)のKC130空中給油機15機を受け入れた。今年1月には最新鋭のステルス戦闘機F35Bを米国外で初めて配備、現在16機が駐機する。さらに来春、艦載機61機の移転が完了する予定だ。

前日に移転伝達

 移転反対派の住民に不安が膨らむ。岩国への戦力集中だけではない。移転を巡って防衛省と米側とのコミュニケーション不足ともとれる事態が相次いでいるからだ。

 中国四国防衛局が、第2陣移転を「27日ごろ」と岩国市や山口県に伝えたのは前日の日曜日の26日。東京・沖ノ鳥島沖で起きた艦載機のC2輸送機墜落事故の影響で既に飛来していた11機も「移転」と扱う内容。事前の飛来機について米側は「計画していた移転ではない」と強調していた。

 「移転や飛来の情報が日祝日に急きょ知らされるのはおかしい」「米軍の運用が最優先されている」。27日、市に移転容認の撤回を申し入れた住民団体のメンバーは声を荒らげた。

 事後報告とも受け取れる今回の移転を批判しない防衛省や市の姿勢に、住民団体の岡村寛代表(74)は憤る。「日本は軽視されている。岩国の機能強化が進み子孫に負の遺産を押し付けてしまう」

岩国軸に厚木も

 地元には、激しい騒音が起きる陸上空母離着陸訓練(FCLP)の行方も気掛かりだ。岩国では00年を最後に行われていない。

 艦載機が所属した厚木基地(神奈川県)では今年9月、5年ぶりに実施。通常、東京から南に約1200キロ離れている硫黄島で行われるが、現地の悪天候が理由だった。「艦載機が移転されても米軍が岩国、厚木両方の基地を都合良く使えるようになるだけだ」。「厚木基地を考える会」の矢野亮代表(66)=神奈川県座間市=は不信感を募らせる。

 米軍は来春の移転完了後、艦載機の司令部を厚木から岩国へ移す。岩国は全国でもまれな、米海軍と海兵隊、海上自衛隊という複数機能を持つ複合的基地になる。軍事評論家の稲垣治氏は指摘する。「米軍は今後も岩国を本拠地に厚木も利用する可能性は高い。そして、より重要性を増す岩国へ一時的な訓練の移転や臨時的な配備も増えるだろう」

【米空母艦載機の岩国移転を巡る主な動き】

2005年 10月 日米両政府が艦載機の岩国移転を含む在日米軍再編の中間報          告に合意
  06年 3月 旧岩国市の住民投票で87%が移転に反対
      5月 日米両政府が在日米軍再編に最終合意
  08年 2月 出直し市長選で、移転に条件付き容認の福田良彦氏が、白紙撤          回を唱えた井原勝介前市長を破り初当選
  10年 5月 約1キロ沖合へ移設した米軍岩国基地の新滑走路運用開始
  12年 12月 国内2カ所目となる軍民共用の岩国錦帯橋空港が開港
  13年 1月 国が艦載機移転時期について、3年程度遅れ17年ごろになる          見込みと山口県と市に伝達
 17年 1月5日 在日米海軍司令部が、艦載機移転は「今年後半に開始          される予定」と発表
     20日 国が市と県に、移転開始時期は「早ければ7月以降」と伝達。          当初計画より2機増の61機に
   6月23日 福田市長が移転容認を表明
   7月11日 市と県が移転容認を国に伝達
   8月9日 移転開始。第1陣のE2D早期警戒機5機が到着
  11月26日 国が市と県に、第2陣のFA18スーパーホーネット戦闘攻撃          機など約30機が「27日ごろ」から移転開始と伝達

(2017年11月29日朝刊掲載)

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