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イワクニ 地域と米軍基地 艦載機飛来 <5> 観光の島 悪影響危惧

騒音被害 広域化予測も

 廿日市市宮島町の厳島神社で昨年5月27日夜、世界遺産登録20年の記念コンサートが開かれた。開演まで20分を切った午後6時40分すぎ、観衆の多くが空を見上げた。視線の先には複数のヘリコプターと垂直離着陸輸送機MV22オスプレイ。平和記念公園(広島市中区)を訪れ、大統領専用機で降りた米軍岩国基地(岩国市)へと戻るオバマ米大統領(当時)の一団だった。

 歓迎ムードの広島市内と同様、島内でも多くの観光客が米軍機に手を振った。だが当時、対岸からヘリなどの一団を見た菊間みどりさん(55)=廿日市市=は「あぜんとした」と振り返る。「事故が相次ぐオスプレイが被爆地を飛び立ち、見せつけるように世界遺産の島の間近を通過する。許されていいのか」。菊間さんは、市民団体「岩国基地の拡張・強化に反対する広島県西部住民の会」の共同代表を務める。

 宮島は岩国基地から最短で9キロ弱に位置する。国が島内に置く騒音測定器は、年200回強の航空機による騒音を記録する。うるささ指数(W値)は現在、環境基準の70を下回る平均50前後。だが、米空母艦載機の岩国移転が完了し基地所属機が約120機と倍増すれば、記録回数は増える懸念がある。

 「観光に悪影響が出ないか心配だ」。島の住民組織「宮島町総代会」の正木文雄会長(68)がつぶやく。10年前に年307万人だった来島者は今年、450万人ペースと好調だ。宿泊客も増え、飲食店の開業も相次ぐ。「うるさい島だと思われたら死活問題」と基地の動向に神経をとがらせる。

 島の伝統文化を守る人たちも不安を募らせる。空海が約1200年前、弥山に開いた大聖院。吉田大裕副住職(26)は昨年6、7月、山頂近くのお堂に50日間こもる修行中、何度も爆音に集中を乱された。「騒音がこれ以上増えると、信仰と修行の地としてふさわしくなくなってしまう」

 119万都市の広島市も艦載機移転と無縁ではない。岩国基地からは直線距離で約30キロ。低空飛行訓練などの米軍機の目撃情報は2016年度までの10年間で計194件。うち15年度だけで半数近くの88件に上る。今年も9月までに西区と佐伯区で計3件の情報が市に寄せられた。

 市中心部でも旅客機などとは明らかに異なる爆音が聞こえることがある。中国新聞の記者は4月中旬の昼間、中区上空を北西方向へ猛スピードで飛び去るジェット機1機を目撃した。写真を撮る間もない、一瞬の出来事だった。

 「移転に伴って米軍機の飛行ルートは広域化し、市上空を飛行するケースが増えるだろう。既に中国山地に向かうルートは以前より広島市寄りになっている」。基地問題に詳しい元愛媛大教授の本田博利さん(69)=廿日市市=は指摘する。「騒音被害も広域化すると予測される。県や自治体が独自に測定し記録を共有するなど影響を把握すべきだ」と求める。

 広島市も、低空飛行訓練や事故の危険性が増える可能性があるとの認識を示す。松嶋博孝・平和推進課長は「広島県と連携し、市民生活に影響が出ないよう必要な働き掛けをしていく」と話す。

 極東最大級の米軍基地へと変貌し軍事的拠点性を高めるイワクニ。その影響がまだ見えぬ中、地域は身構える。(山瀬隆弘、久保田剛、森戸新士)

 「艦載機飛来」は終わります。

(2017年12月3日朝刊掲載)

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