社説・コラム

天風録 『茶碗と戦争』

 熱いマグカップで手を温めつつコーヒーをすする。せわしない師走でも気持ちの和らぐひとときに、ふと思う。戦国時代の武将が茶の湯に引かれたのも、こんな安らぎを求めたためかと▲戦での功名とともに名高い茶道具の入手に熱を上げた。茶碗(ちゃわん)や茶入(ちゃいれ)に浮かぶ、えも言われぬ表情を愛(め)でて茶を飲みしばし心静めたに違いない。大名物(おおめいぶつ)ともなると国一つと同じ価値がある。さほどに戦と茶は密接だった▲さても、この器はいかがか。大東亜戦争中暦手茶碗は胴に「米英ニ対シ宣戦下ル」「マニラ占領」といった戦況が書き連ねてある。京都市で開かれている「茶道具が語る戦争」展で見た。日露戦争時からの品々が並ぶ▲真珠湾襲撃図を床の間に掛け、砲弾形の茶入から、銘「神風」という近衛文麿作の茶杓(ちゃしゃく)ですくい、八紘一宇(はっこういちう)と刻まれた茶碗に点(た)てる―。何とも心落ち着かぬ茶席ではないか。到底「結構なお点前でした」とは言えまい▲76年前のきょう太平洋戦争が始まり、生活も文化も一色に染まった。その反動か。展示の最後にある茶碗が目を引く。胴に星条旗柄をあしらい、碗の底に日の丸。親善を願う戦後の作という。だが今は、少し不気味さが感じられもする。

(2017年12月8日朝刊掲載)
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