社説・コラム

社説 エルサレム首都宣言 中東和平の道閉ざすな

 トランプ米大統領が、エルサレムをイスラエルの首都と認め、テルアビブにある米大使館を移転すると宣言した。

 イスラエル・パレスチナ紛争の解決に向け、中立で公正な仲介者という立場を貫くべきなのに、あまりにも思慮を欠いた危うい方針転換といえよう。

 東エルサレムを将来の独立国家の首都と位置づけるパレスチナ自治政府をはじめ、アラブ各国が反発している。中東和平への道も閉ざしかねない。国際社会の理解は得られないだろう。

 ユダヤ教とイスラム教、キリスト教の聖地であるエルサレムは、国連決議で国際管理地区と規定されている。イスラエルが「首都」と宣言した際も、国連安全保障理事会は認めないとの決議を採択している。

 アラブ人によるパレスチナ国家を樹立し、ユダヤ人国家のイスラエルと平和的に共生する「2国家共存」を、米国はこれまで中東和平の原則としてきた。中でも、エルサレムの帰属は宗教的な聖地を巡るデリケートな問題で、当事者の直接交渉で解決することにしていた。米国を含む国際合意でもある。

 それだけにイスラエル側へ一方的に肩入れをする米国の決定は、中東政策の抜本的な転換といえる。さまざまな国連の決議に反するだけでなく、これまで築き上げてきた和平の枠組みを崩壊させてしまう恐れもある。国連のグテレス事務総長が早速、「和平の見通しを危うくする一方的な措置だ」と批判したのも当然である。

 米議会が1995年に大使館のエルサレム移転を決めたが、歴代大統領が凍結してきたのも、同じ理由からである。現状では移転先の候補は決まっていないというが、実際に移転すれば、世界中のイスラム教徒の心情を逆なでし、敵に回しかねない。

 トランプ氏は大統領就任以来、イスラム圏に厳しく、イスラエルに融和的な姿勢を鮮明にしてきた。特定のイスラム教徒国からの入国を禁止し、国連教育科学文化機関(ユネスコ)が「反イスラエル」に偏向しているとして脱退を決めた。イスラエルが強く反対してきたイラン核合意についても、破棄することを警告し続けている。

 トランプ氏は昨年の大統領選で、エルサレムの首都認定と大使館移転を選挙公約とし、ユダヤ系や親イスラエルの保守層へ支持を拡大した。今回の決定にも、自らの支持基盤を固めるという国内事情への配慮がにじむ。和平実現に向けた「新しいアプローチ」の一環と説明するが、長期的な戦略を欠いた外交政策といわざるを得ない。

 政権とロシアとの不適切な関係を巡る「ロシア疑惑」では、トランプ氏の娘婿でユダヤ教徒のクシュナー大統領上級顧問が捜査当局から事情聴取を受けている。同氏への追及の矛先をかわし、疑惑から米国民の目をそらしたいとの思惑も透ける。

 自国の都合を優先するトランプ政権に対し、パレスチナ側の不信感が強まるのは避けられまい。対イスラエル武力闘争を掲げる急進勢力の台頭を招きかねない。米国の決定に強く反発する人々を戦闘員に勧誘する口実を与え、イスラム国(IS)など過激派組織を勢いづかせる可能性もある。

 テロは、パレスチナ問題を解決しない限り、根絶できない。

(2017年12月8日朝刊掲載)
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