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ICAN平和賞 ヒロシマの惨禍伝える サーローさん 式控え会見

 ノルウェー・オスロで10日にあるノーベル平和賞の授賞式を控えた非政府組織(NGO)「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN(アイキャン))が9日、現地で記者会見した。式で受賞演説をする広島市南区出身の被爆者サーロー節子さん(85)=カナダ・トロント市=は、原爆投下直後の広島の惨禍について語る考えを示した。(オスロ発 水川恭輔)

 サーローさんはICANと活動を共にし、今年の核兵器禁止条約制定交渉会議などで演説してきた。会見では、被爆者たちが体験を語ることすらままならなかった戦後の占領下を経て、「誰にもこんな体験をさせてはならない」と核の非人道性を世界に直接訴えてきた思いを強調。禁止条約に反対する日本政府を「一貫性がない」と批判し、核兵器廃絶を目指す「道義的責任がある」と述べた。

 会見では、サーローさんと受賞演説に立つICANのベアトリス・フィン事務局長や、創設メンバーで国際運営委員を務めるオーストラリアのティルマン・ラフ医師が条約の早期発効などを訴えた。

 ICANは101カ国468団体が加盟し、スイス・ジュネーブに本部を置く。7月の禁止条約制定への「革新的な努力」を理由に、ノーベル賞委員会が10月に授賞を発表した。

 授賞式には、日本人ただ一人の国際運営委員でNGOピースボート(東京)の川崎哲(あきら)共同代表(49)、日本被団協の田中熙巳(てるみ)代表委員(85)と藤森俊希事務局次長(73)、広島市の松井一実、長崎市の田上富久両市長たちが出席する。

(2017年12月10日朝刊掲載)

記者会見でのサーロー節子さん発言

 (冒頭)第2次世界大戦中、日本は現人神に統治されており戦争に負けるはずがない、と信じ込まされていた。しかし日本は原爆を投下された数日後に降伏し、惨めな敗戦を迎えた。続いて連合国軍総司令部(GHQ)の占領統治が始まった。マッカーサー元帥は「日本の非軍事化と民主化のため」と言い、実際に教育制度や財政制度の改革、女性の社会的地位の向上など良いこともあった。だが、こと広島と長崎に関しては完全に逆だ。ほかでもない、市民を苦しめる原爆被害の事実が知れ渡ることは米国の利害に反するからだ。

 新聞など発行物の検閲が始まった。市民の日記と手紙、詩、写真、映画、そして病理標本までが没取され、膨大な資料が米国に送られた。一連の統制は私たちに「原爆について語ってはならない」と暗に強いるものだった。

 だが、原爆を生き延びた者は、焦土から立ち上がり、苦闘続きの毎日を送る中で確信した。原爆被害は受け入れがたい人間の苦しみであり、他の誰にもこんな体験をさせてはならない、と。世界に向けて語り始めることが使命だ、と。被爆者はそれから数十年間にわたり、可能な限り世界で体験を語り、「これこそが核時代の幕開けに起こった現実だ」と伝えた。自らの声を世界に直接届けることに長年努力してきた。

 一方で、世界には今なお核兵器が1万5000発もあり、抑止力だの、戦略論だのといった議論に終始してきた。「人道性」という面からの懸念は隅に追いやられたままだった。ときに被爆者は「正しい事を、正しい方法で取り組んでいるか」と自問した。世界は、私たちの声に十分に耳を傾けてはくれなかった。

 そこで「核兵器の非人道性」という課題を掲げ、被爆者の魂をよみがえらせてくれたのが核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)だった。私たちは喜んでICANの活動に加わった。ICANは被爆者が気が遠くなるほど繰り返し訴えてきたことを理解し、「あなたたちは一人じゃない」と手を携えて行動してくれる。ICANの存在は、被爆者にとっての心理的な癒やし、という意味でも重要だ。

(核保有国の大使が授賞式を欠席することについて)

 知った時に驚きはなかった。私たちの活動を妨害し信用を傷付けようとする彼らの行動は、ICANが活発になった時期から繰り返されている。非常に残念なのは、自分たちだけが問題解決の鍵を持っている、という一方的な態度。最初は一致点がないとしても、こちらのアプローチを理解しようとすべきだ。たとえば日本もそう。保有国と非保有国の「橋渡し」を果たしたいと言いながら、私たちの側の方法論を理解しようとせずに「もう一方のアプローチしか道はない」と主張する。問題解決のあり方として非常に傲慢であり、うまくいかないだろう。

(北朝鮮の核・ミサイル問題について)

 米朝両国のリーダーに強く求めたい。決して核兵器を使ってはならない。軍事力ではなく、交渉による外交的、政治的な解決が唯一の方法だ。非常に衝動的な行動を取るリーダーは危険だ。何が起ころうとも決して核兵器を使ってはならない。彼らの周りには数百万人もの人間がいるのだ。

(日本の核軍縮へのアプローチについて)

 日本人の大多数は核兵器の完全廃絶を支持している。しかし日本政府は米国と特別な同盟関係を持ち、核兵器の傘に頼っている。公式、非公式の両面で新たな反核運動が起こっているが、安倍首相はトランプ政権を強く信じ、被爆者と市民の声を聞こうとしない。政府は無関心な態度を取り続けている。国内向けには「唯一の戦争被爆国として、核の恐怖を最も知る。廃絶を目指す先頭に立つ」と言いながら、いったん国連の場に出ると全く逆の発言をする。完全に一貫性を欠いており、日本に対する尊敬と信頼を自ら傷付けている。方針を転換し、核兵器禁止条約に署名、批准すべきだ。問題の種であり続けるのではなく、問題解決の側に加わってほしい。被爆国には道義的な責任がある。「人道上の恐怖を最も知る国」というならば、道徳観を私たちと共有できるはずだ。

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