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社説・コラム

緑地帯 マーシャル諸島に学ぶ 竹峰誠一郎 <8>

 マーシャル諸島では、3月1日は「核被災追悼記念日」とされ、国の休日になっている。ことしは式典と合わせて、「核の負の遺産」に関する国際会議が政府主催で開催された。

 基調講演には、8月に逝去したトニー・デブルム前外相が立ち、自身の被曝(ひばく)体験の一部を孫に語らせた。「パリ協定」を成立させた2015年の気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)には、トニーさん主導で18歳の高校生が、マーシャル諸島政府代表団に組み入れられていた。トニーさんが核実験や気候変動などの問題を訴え続けた根底には、子どもたちの未来への思いがあったのだ。

 核被害地の未来をどう拓(ひら)いていくのか。「復興」という言葉は、マーシャル諸島では聞かれない。代わりに、核被害地で繰り返された不公正を断ち切り、人としての公正な扱いを求める「ニュークリア・ジャスティス」(核の正義)という言葉が聞かれる。

 マーシャル諸島は、海に開かれ、小さな島々が弧を描くように連なる環礁からなる。環礁は一つの島ではない。私は、日本が「唯一の被爆国」という一つの「島」に閉じこもってはいけないという思いを込め、「グローバルヒバクシャ」という見方を提唱してきた。

 日本を含む世界各地の核被害地、一つ一つの「島」と「島」を海に開き、結び、弧を描くように、新たな「環礁」を構想する。そのことが被爆地広島、長崎が持つ普遍的な価値を高め、福島第1原発事故のその後を見据える扉にもなると確信している。(明星大准教授=東京都)=おわり

(2017年11月30日朝刊掲載)

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