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社説・コラム

社説 サーローさん演説 「核は絶対悪」一層強く

 核兵器の終わりの始まりにしようではありませんか―。

 広島の被爆者でカナダ在住のサーロー節子さん(85)が、ノーベル平和賞の授賞式で訴えた言葉に、廃絶への決意を新たにした人も多いのではないか。

 核兵器禁止条約の採択に尽くした受賞団体「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN(アイキャン))とともに演説に立った。

 世界中が注目する権威ある授賞式である。核兵器使用が人類にもたらす悲惨を身をもって体験した被爆者が、メッセージを発した意義は大きい。

 13歳で被爆し、カナダを拠点に核兵器の非人道性を伝え続けているサーローさんは、かねてICANに協力してきた。

 演説では、家族や同級生ら無数の命が奪われたきのこ雲の下の惨状を生々しく証言した。核保有国などが安全保障上の抑止力を強調し、「必要悪」とする核兵器を「絶対悪」と断じた。

 ノーベル賞委員会がICANへ平和賞を授与したのは、核兵器廃絶に向け、国際社会にさらなる努力を促す狙いがあったのだろう。

 核を巡る情勢は深刻極まりないからだ。条約には既に56カ国・地域が署名を終えているものの、核保有国はおろか、日本政府など「核の傘」にいる国々は背を向けている。核軍縮は停滞し、北朝鮮は核・ミサイル開発を加速させている。

 「ほかの誰にも同じ思いをさせてはならない」と活動を続けてきた被爆者が今年も相次いで亡くなった。老いた被爆者にとって残された時間は短く、焦りを深めている。

 とりわけ廃絶を主導すべき被爆国が米国の核に頼る姿勢にはいら立ちを隠せないようだ。きのう菅義偉官房長官は「日本政府のアプローチとは異なる」と条約への反対姿勢をあらためて示した。サーローさんが保有国だけではなく、「核の傘」の下にいる国々の当局者に対しても「共犯者」と呼んで非難したのも当然だろう。

 授賞式には、五大核保有国の大使の姿がなかった。事実上のボイコットである。核保有国は条約に対し、今ある核拡散防止条約(NPT)や、安全保障上の「戦略的安定」を脅かすなどとして反対している。だがNPTは、保有国に廃絶を目標とした核軍縮の努力を義務付けている。本気で取り組むつもりがあるのだろうか。

 授賞式には広島、長崎の両市長も招かれた。両被爆地は「核の傘」が神話であることを訴え続けてきた。昨今の米朝情勢などを見ても、偶発的なミスや指導者の突発的な怒りなどから、核兵器が使われる危険性はむしろ高まっている。

 核兵器が存在する限り、核物質がテロリストの手に渡る危険もある。開発や製造の過程で今もヒバクシャが生まれている。核による被害を起こさないようにするには、核兵器をなくすしかないのは明らかではないか。

 ICANの活動はそのための第一歩だ。ベアトリス・フィン事務局長は演説で、「恐怖や破壊よりも生命を信じることが、理想主義的なのか」と投げ掛けた。選ぶべきは「核兵器の終わりか、それとも、私たちの終わりか」とも。

 この世に生を受けた人間として考えれば、答えはおのずとはっきりしている。

(2017年12月12日朝刊掲載)

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