×

連載・特集

[インサイド] 火山と原発 根幹問う 1万年に1回 備えは 伊方差し止め

 四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)の運転を差し止めた13日の広島高裁の決定は、原子力規制委員会が認めた火山対策は「不合理だ」と断じた。東京電力福島第1原発事故以降、巨大地震への対応が焦点となる中、「火山大国」日本に立地する原発の再稼働にも影響を及ぼす可能性がある判断。専門家からは、噴火の発生リスクが小さい火山への安全対策の見直しを指摘する声も出ている。(菊本孟、野崎建一郎)

 「厳しい決定。到底承服できない」。決定直後、四電幹部は高裁前で硬い表情で取材に応じた。高裁が命じたのは、2018年9月30日までの運転停止。原発の代替となる火力発電にかかる燃料費などとして月35億円の追加費用を見込む四電にとって大きな痛手となる。

決定覆る予感

 決定は、熊本県の阿蘇カルデラ(原発から約130キロ)の過去最大規模の噴火が福島第1原発事故を上回る「破局的被害」をもたらすと言及。日本の火山全体で同規模の噴火は1万年に1回程度とする火山学の知見を踏まえ、「住民の生命、身体に対する具体的な危険が存在すると推定される」と指摘した。

 住民側の原告団は決定前、申し立てを却下した広島地裁の決定が覆る可能性を感じ取っていた。高裁は四電と住民側に対し、基準地震動の合理性や火山の危険性などについて40項目以上の説明を文書で求め、2度の審尋でも繰り返し尋ねていた。住民側の弁護団は「問題意識を明らかにし、これほど繰り返し熱心に質問するのは異例」。全国の同種仮処分の審尋との違いを明かす。

 背景には、福島事故前の多くの原発訴訟で「安全」のお墨付きを与えてきた司法の信頼を回復しようという姿勢もうかがえる。原発訴訟を巡っては、国の手続きの適否を審理の中心としてきたが、福島事故後、最高裁が開いた研究会では出席した裁判官から安全性をより本格的に審査しようという意見が出たという。元裁判官で広島弁護士会の能勢顕男弁護士は「安全神話が崩れた今、裁判官は原発の危険性をより慎重に判断している」とみる。

 福島事故後、再稼働した原発は活火山の桜島を抱える鹿児島県の九州電力川内(せんだい)原発(薩摩川内市)など計5基。阿蘇カルデラから伊方原発と同程度の距離にある同電力玄海原発(佐賀県玄海町)など4基が来年5月までの再稼働を予定する。

「統一基準を」

 この日の決定に、菅義偉官房長官は会見で「専門的な見地からの新規制基準に適合するとの原子力規制委の判断を尊重する政府方針に変わりない」と述べた。

 だが、広島大大学院の並木敦子准教授(火山学)は「1万年に1度のリスクをどう評価するのかを議論する必要がある」と指摘。大阪大の宮崎慶次名誉教授(原子炉工学)は「原発訴訟で司法の判断が割れれば、新増設など国の政策に影響しかねない。司法による統一的な判断基準となる最高裁での判例が早く示されるべきだ」としている。

伊方原発
 瀬戸内海に面した愛媛県伊方町にあり、加圧水型軽水炉計3基の原発。福島第1原発事故後、2011年4月から12年1月までに全3基が定期検査のため運転を停止した。1994年に運転を開始した3号機(出力89万キロワット)は15年7月に原子力規制委員会の審査に合格し、16年8月に再稼働した。運転開始から40年に迫っていた1号機は、同年5月に廃炉となっている。

(2017年12月14日朝刊掲載)

年別アーカイブ