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「夢千代日記」早坂暁さん死去 平和への願い 作品に託す

 脚本家で作家の早坂暁さんが東京都内で死去した。88歳だった。松山市出身。吉永小百合さんが広島の胎内被爆者を演じたNHKの人気ドラマ「夢千代日記」をはじめ、原爆と戦争を見据えた作品、そして活動に足跡を残した。

 奥底を流れていたのが「妹」の記憶だ。3歳下の春子さん。実は四国の遍路道に面した実家の前に捨てられていた、赤ちゃんだった。家の子として育てられ、ひそかに思い思われる。早坂さんはやがて防府市にあった海軍兵学校へ。そして春子さんは母から自らの出生について知らされる。「お兄ちゃん」に一目会って話をしたいと単身、防府へ向かったのが、1945年8月6日の運命の日の直前だった。

 終戦後、復員途中の広島駅で、廃墟の暗闇の中に無数のリンの光が燃えているのを早坂さんは見たという。防府に訪ねてこなかった春子さんの行方は、古里でも分からないまま。広島で被爆死したとしか考えられなかった。あの光の中に妹がいたに違いない、と。

 その思いを原点に、多くの作品が生まれた。春子さんの慰霊を考え続けた。妹の面影を乗せた、被爆死した少女が現代によみがえる映画「夏少女」の脚本を、戦後50年の節目に手がけた。被爆直後の惨状を広島の街中に陶板にして残す、「被爆者が描いた原爆の絵を街角に返す会」の会長も務めた。ヒロシマが過去になることを懸念していた。(岩崎誠)

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