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連載・特集

2017中国地方この1年 核兵器禁止条約の制定

 ヒバクシャの願いだった核兵器禁止条約が国連で採択され、条約制定に力を入れた非政府組織(NGO)のノーベル平和賞受賞に沸いた2017年。一方、北朝鮮を巡る東アジアの緊張が高まる中、安倍晋三首相率いる自民党が総選挙で圧勝した。中国地方では、広島東洋カープがセ・リーグを連覇し、瀬戸内にゆかりのある朝鮮通信使の関連資料がユネスコの「世界の記憶」に登録された。激動の1年を振り返る。

平和賞 推進への追い風

 核兵器禁止条約の制定をねぎらい合う一幕だった。先月30日、広島市中区の広島国際会議場であった国連軍縮会議2日目の会合の合間。米ニューヨークの国連本部での条約制定交渉会議で議長を務めたコスタリカのホワイト大使を、被爆者やNGO「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN(アイキャン))の川崎哲(あきら)国際運営委員(49)たちが囲み、広島の市民が作った折り鶴の首飾りを贈った。「ありがとう」と。

 「条約は強く、包括的禁止がうたわれている」。直前の会合で登壇したホワイト大使は胸を張った。開発や保有、使用はもちろん、使用するという「威嚇」を含め、核兵器に関する行為を全面禁止した初の国際条約。非保有国が主導し、国連本部で7月7日、122カ国の賛成で採択された。

被爆者も後押し

 3月と6~7月の計約1カ月の会議には被爆者たちが相次ぎ訪れ、後押しした。広島で被爆した日本被団協の藤森俊希事務局次長(73)は初日に登壇し、学徒の姉の死に触れて「条約の成立、発効に共に力を尽くそう」と呼び掛けた。6月には広島県被団協(坪井直理事長)の箕牧(みまき)智之副理事長(75)たちが全ての国に条約締結を求める市民約296万人の「ヒバクシャ国際署名」の目録をホワイト大使に届けた。

 禁止条約の前文には、被爆者の受け入れがたい苦しみに留意すると明記されている。原爆の非人道的被害への認識が国際社会に広がり、核を持たない国々が条約を編み上げた。

 一方、核を持つ9カ国は交渉に不参加。米国のヘイリー国連大使は会議開幕に当てつけるように議場そばで記者会見し、核・ミサイル開発を進める北朝鮮を挙げて、条約が安全保障に悪影響を与えると主張した。日本政府も高見沢将林軍縮大使が会議初日に条約交渉への反対演説をし、実質交渉には加わらなかった。

 そんな中、条約推進への追い風が吹いた。「人類と核兵器は共存できない」という被爆者の訴えに共感し、NGOの立場から条約制定に貢献したICANへのノーベル平和賞だ。

受賞演説で迫る

 今月10日、ノルウェー・オスロであった授賞式では、ICANと共に活動してきた広島市南区出身の被爆者サーロー節子さん(85)=カナダ・トロント市=が賞状を受け取った。被爆者として初の受賞演説に立ち、「核武装国」とその「共犯者たち」は「私たちの証言を聞きなさい」と迫った。

 オスロでの授賞式を前にした10日、被爆地広島には雨が降っていた。原爆ドーム前で反核平和団体が催した受賞を祝う集会には、中高生や被爆者たち約100人が訪れた。「市民や行政が廃絶へ行動するきっかけになれば」。参加した被爆者の原田浩さん(78)=安佐南区=は口にした。世界各地で「核の傘」を畳む日を願って。(岡田浩平)

(2017年12月19日朝刊掲載)

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