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北朝鮮の標的化 懸念 萩の演習場に地上イージス検討 住民、振興策に期待も

 萩市の陸上自衛隊むつみ演習場を候補地に検討する地上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」について、政府は19日に正式に導入を決めた。山口県への説明はいまだになく、住民からは北朝鮮のミサイル標的リスクを不安視する声も上がる。一方で、現地は戦後、秋吉台(美祢市)にあった日米の演習場の代替地として地元が誘致した経緯があり、国防への理解を示す意見が目立つ。

 日本海沿岸部から直線距離で約10キロ。同演習場は旧むつみ村(現萩市)の山間にあり、約198ヘクタールの敷地が広がる。1960年に開設され、陸自山口駐屯地(山口市)が管理する。部隊は常駐せず、訓練時だけ使用している。

 演習場のある高俣地区の人口は580人(11月末時点)。周辺には民家も点在する。「小さな集落に突然降って湧いた話。報道で知っただけで地元に何も説明がない」と同地区に暮らす無職女性(64)はいぶかる。「北朝鮮のミサイル発射もあり必要性は分かるが、逆に狙われないかも心配」

 山村に訓練場ができた経緯には曲折がある。「むつみ村史」によると、戦前から秋吉台にあった陸軍演習場を、戦後接収した在日米軍が56年に空爆演習場に指定。だが県側の反対を受け、翌57年に米側は全面返還した。その代替地に浮上したのが、当時のむつみ村の大規模な開拓地だった。

 「満州(現中国東北部)などからの引き揚げ者が入植し、開拓した土地。もとは原野だった」。開拓地周辺の土地を持っていたという同地区の無職男性(85)は振り返る。結局、入植者による農業経営は行き詰まり、村は開拓地への自衛隊の誘致を決めた。国へ売却後、地元対策で道路や河川改修などの整備も進んだ。

 「演習場の誘致で馬車道が車道になった。今度は何ができるのか知らんが、いまさら反対しても」と男性。かつて自衛隊の誘致に山村の振興を託した地元では、新たな国防協力への「見返り」に期待する声も高まりつつある。

 この日の閣議決定を受け、村岡嗣政知事は報道陣の取材に応じ「現時点で国からは配置箇所について検討段階ということなので、国の動向を注視したい」とした上で「もし山口に(配置)となれば、住民の不安がないようしっかりと丁寧に国が説明するべきだ」と述べた。(和多正憲)

(2017年12月20日朝刊掲載)

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