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連載・特集

イワクニ 地域と米軍基地 フェンスのそばで <下> アメとムチ

基地の隣 広場に歓声

交付金 生活に染み込む

 孫を抱きかかえほほ笑む祖父、出張に向かうビジネスマン…。米軍岩国基地(岩国市)と滑走路を共用する岩国錦帯橋空港。21日午後、ロビーは出迎えの家族や搭乗客で混み合っていた。展望デッキに上ると、猛スピードで滑走路上空を飛ぶ戦闘機が遠くに見える。厚木基地(神奈川県)から移ってきた空母艦載機だ。

 空港は、在日米軍再編のロードマップに「民間空港再開」が明記されて6年後の2012年に開港した。米軍再編で負担が増す岩国へ、いわば見返りとして日米両政府が設置を認めた。現在、全日空が東京便5往復と沖縄便1往復を運航する。乗客数は近く200万人に達する見通しだ。

 「ナイスキャッチ」。空港そばの「川下旭運動広場」に寄ってみると、歓声が聞こえてきた。広場は13年、空港の駐機場用地となった旧広場の代わりに整備された。総事業費約7億円のうち9割は米軍再編交付金が充てられた。「会話ができないくらいの騒音もあるが、伸び伸びとプレーできてありがたい」。週3回ほど利用するソフトボールクラブの森岡昭男さん(75)=岩国市室の木町=は汗を拭った。

 広場の約1キロ東には滑走路を一望できる堤防道路が延びる。なじみの航空ファンと並んでファインダーをのぞいた。海兵隊の最新鋭ステルス機F35Bが6機、艦載機が4機…。移転した艦載機はまだ予定数(61機)の6割程度ながら、以前より米軍機の離着陸は過密になった印象だ。

 今月上旬。ミサイル発射を繰り返す北朝鮮の動きを踏まえ、米韓両国が実施した軍事演習に、岩国からF35Bなどが参加した。米軍三沢基地(青森県)からは空軍F16戦闘機が18機の大編隊で岩国へ飛来、給油を済ませるとすぐさま演習に飛び立った。堤防に立つと、朝鮮半島に近い岩国基地の役割が垣間見える。

 再編合意から10年余り。再編交付金は、中学生までの医療費無償化、観光施設の整備など市民生活に染み込んだ。空港は県東部の玄関口になった。艦載機移転を巡る「アメとムチ」を、基地と隣接して暮らす住民は今、どう受け止めているのだろう。基地東側のフェンス沿いにある車町3丁目を訪ねた。

 08年、ここの車第3自治会(当時約140世帯)は「騒音で住めない環境になる」と集団移転を模索した。市や山口県などに求めた移転先は、西に2キロ離れた愛宕山地域開発事業跡地。県と市が住宅開発を計画していたが頓挫し、当時、国が米軍住宅の建設候補地として検討を進めていた。

 「米軍住宅という事実上の基地が新たにできるのを防ぎたかった」。住み慣れた地を離れようとした住民の覚悟には、そんな思いもあったという。集団移転は実現せず、跡地には今年7月末、米軍住宅262戸が完成した。

 当時のいきさつを尋ねると、「もう蒸し返したくない」と話したがらない住民に何人も会った。ただ、取材に応じてくれた男性は断じた。「交付金で移転を認めさせるような国のやり方は気にくわない。そのお金も、住民の不安払拭(ふっしょく)のために使うべきじゃないか」(藤田智)

米軍再編交付金
 米軍再編推進法に基づき、国が対象となる市町を指定。在日米軍再編への協力度合いや再編の進み具合に応じて支給する。岩国市は2008年度から16年度までに計125億円を受給。期限を迎える22年度までの受給総額は201億円に上る見込み。岩国基地関連では大竹市、山口県周防大島町、同県和木町も受給している。都道府県向けに別の交付金もあり、現在は山口県だけが対象となっている。

(2017年12月22日朝刊掲載)

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