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社説・コラム

『記者縦横』 伊方差し止め 重い判断

■報道部 有岡英俊

 世界有数の火山国の日本で原発の安全性を根幹から問う、司法の重い判断だった。四国電力の伊方原発3号機(愛媛県伊方町)の運転差し止めを命じた13日の広島高裁の仮処分決定だ。原発から130キロ離れた熊本県・阿蘇山の巨大噴火を挙げ、9万年前の規模であれば原発に火砕流が押し寄せる可能性が否定できないとした。

 「あまりに極端」との指摘はあるだろう。そもそも仮処分は、住民に著しい損害が及ぶ恐れがある場合に短期間で判断する手続き。高度な知見を要する原発訴訟はなじまないとの3月の広島地裁決定にも一定の理解ができる。ただ、国が原発政策を推し進める中、福島第1原発事故は起きた。

 訴訟は、原発事故を受け、「二度と放射線被害に苦しむ人を出したくない」と願う被爆者たちが起こした。高裁段階で初となる差し止め決定が、被爆地広島でなされた意義も大きい。

 これまで原発を巡る訴訟の最大の争点は地震、津波のリスクだった。しかし高裁の判断は、発生頻度が低い火山の巨大噴火による事故の可能性に踏み込み、安全性のハードルを上げた。

 今なお、福島県から県外への避難者は約3万4千人に上り、広島県にも約180人がとどまっている。古里を追われ、将来にわたって健康不安を抱える人たちがいる。それは原爆の放射線被害に苦しむ被爆者の歩みとも重なる。原発やエネルギーの在り方は、立地住民だけの問題ではない。国や社会全体に問う契機にしたい。

(2017年12月22日朝刊掲載)

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