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[回顧やまぐち2017] 上関原発 賛否両派「半歩」歩み寄り

衰退懸念 まちづくりに力

 半歩―。中国電力上関原発建設計画が浮上してから上関町では住民同士の対立が35年続く。その中で推進、反対両派に割れる町議会は11月末、初めて全員が一緒に資源エネルギー庁を訪れた。お互いに歩み寄った距離を西哲夫議長(70)は冒頭のように表現した。

高齢化率55%超

 「5年、10年先には多くの地区が限界集落になる」。今月13日の町議会閉会時のあいさつで危機感をにじませた西議長。この1年で町民は87人減って2900人を割った。計画浮上の1982年から60%近く減り、高齢化率も55%を超えた。エネ庁では町の衰退を伝え、上関原発の行方を左右する見直し中のエネルギー基本計画について問うた。

 原発財源や関連工事などで、町の活性化を思い描く推進派。福島第1原発事故後に中電の準備工事は止まり、期待した経済、雇用の効果は生まれていない。今回の基本計画に新増設が盛り込まれなければ、さらに町が疲弊するとの思いは強い。原発に依存しない反対派だけでなく、推進派も原発のない現状でのまちづくりに向かい合っている。

 実際に町では、原発賛否の垣根を越えたまちづくりが進む。工事が進む風力発電については風況調査が終わり、想定通りのデータが得られた。特産品開発やふるさと納税拡大も加え、新たな収入源に期待。原発関連財源を見込めなくなり、一時中断していた庁舎の建て替えも、進み始めた。柏原重海町長(68)は「原発にかかわらず、まちづくりは力を結集しなければできない」と話す。

 年の瀬に、原発を取り巻く環境は厳しさを増したかに見える。町議会閉会と同日、広島高裁は高裁として初めて、愛媛県の四国電力伊方原発3号機の運転差し止めを決定。約130キロ離れた阿蘇カルデラ(熊本県)の大規模噴火を重視した。「再稼働は進まない。新設はなおのこと」。上関原発を建てさせない祝島島民の会の清水敏保代表(62)は指摘する。

「塩漬けが続く」

 同カルデラから伊方原発と同程度の距離にある上関原発予定地。中電は6月、新たなボーリング調査を始めた。6カ所を掘る予定で、最初の3カ所は既に試料を採取し、分析に回している。準備工事は中断したままだが国の安全審査再開に向けて準備を進める。

 「新増設(の議論)は先々出てこざるを得ないが上関は無理だろう。塩漬けが続く」。通算17年務めた町議を今期限りで引退する山戸貞夫氏(67)は見通す。祝島に暮らし、福島事故後に清水代表と代わるまで原発反対運動の中心だった。その後はまちづくりを重視し、町議会でも原発への言及は減っていた。13日の定例会閉会後の取材に山戸氏は「町の存続を望む」との言葉を残した。

 来年2月の町議選では、推進、反対ともに新たに町を導いていく議員が選ばれる。近づいた半歩を一歩にできるか。町の分岐点で、両派ともにその認識は年々深まっている。(堀晋也)

(2017年12月22日朝刊掲載)

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