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社説・コラム

社説 原発と規制委 再稼働ありきでいいか

 原子力規制委員会が、新潟県の柏崎刈羽原発6、7号機に対し、再稼働に向けた「安全」のお墨付きを正式に与えた。

 東京電力福島第1原発事故後、東電の原発が審査を通ったのは初めてで、事故を起こしたのと同じ沸騰水型の原子炉としても全国初だ。東電は早期運転再開を目指しているが、地元の同意なしに再稼働できないことを、肝に銘じてほしい。

 新潟県の米山隆一知事は再稼働に慎重な姿勢を崩していない。万一のときの避難方法や福島の事故について「県独自の検証がなされない限り再稼働の議論は始められない」とし、判断には3~4年かかるとの考えだ。

 同県は、「合格」と判断した規制委に対し、年明けにも正式に説明を求める方針だという。地元住民にとって「安全」と「信頼」は欠かせない。規制委は判断に至った経緯も含め、詳細に説明する責任がある。

 そもそも6年前に起きた福島の原発事故への対応ができていないことを忘れてもらっては困る。現場での調査が十分できないため、いまだに事故原因も究明されていない。廃炉のめども立ってはいない。

 そうした状況下で規制委は、事故の当事者である東電の安全対策が、新規制基準に適合していると認めたのである。

 審査は、設備面だけでなく、東電の事業者としての適格性がもう一つの焦点だった。当時の田中俊一委員長は当初、事故を起こした東電は「ほかの電力会社とは違う」との問題意識を持ち、「再稼働の資格なし」とまで発言していた。

 だが東電が廃炉をやり遂げるとする「決意文」を出すとそれを受け入れ、ゴーサインを出した。「決意」さえ示せば良かったのだろうか。疑問が残る。

 柏崎刈羽原発では今年、免震重要棟の耐震性不足を3年前に把握しながら規制委に報告していなかったことが発覚した。そんな姿勢で原発再稼働を任せていいのかと、被災者や原発立地の住民から不安の声が上がるのも当然だろう。

 発足5年を迎えた規制委は、福島の事故を反省し、政治や行政から独立した立場で原子力施設の安全性を監視するために設置されたはずだ。これでは、政府が進めたい原発再稼働にお墨付きを与えるための機関だと言われても仕方あるまい。

 司法では、そのお墨付きに待ったをかける判断も下された。再稼働していた四国電力伊方原発3号機(愛媛県)について広島高裁は今月、運転差し止めを決定した。規制委が認めた四電の火山対策を「不合理」と断じた。同様の立地の原発は少なくない。重く受け止めるべきだ。

 安全性を追求すれば費用は当然かかる。先日、関西電力は大飯原発2基の廃炉を決めた。安全対策にコストがかかり過ぎ、採算が合わないと認識したからではないか。

 政府や東電は、再稼働を経営再建の柱と位置付けてきた。廃炉や賠償の費用が膨らむ一方、停止している原発の維持費もかかるから再稼働しなければ―。そんな経済性を最優先した理由で、安全性が軽視されることがあってはならない。

 規制委は再稼働を前提にするのではなく、地元住民の不安と向き合って議論を重ね、慎重な判断に努める必要がある。

(2017年12月30日朝刊掲載)

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