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連載・特集

イワクニ2017 艦載機移転 始まる

 米軍厚木基地(神奈川県)からの空母艦載機移転が始まり、岩国基地(岩国市)と地域にとって大きな節目の年となった。予定される61機のうち半数以上の36機程度が既に配備され、移転は来年5月ごろまでに完了する予定だ。基地の西約3キロの愛宕山地区では「もう一つの基地」とも言える米軍家族住宅などが完成。艦載機移転に伴う米軍関係者の増加を見据え、「基地との共存」を模索する動きも加速した。(松本恭治、馬上稔子、坂本顕)

■受け入れ容認

騒音・治安の不安残る

 2006年の日米合意から11年。艦載機移転を巡り、年明け早々から大きな動きがあった。在日米海軍が1月5日、移転開始時期を「今年後半」と発表。国は同月20日に「早ければ7月以降」とし、具体的な機種や機数も明らかにした。

 受け入れの判断材料として岩国市は5月12日、国に要望した安心安全対策43項目の達成状況を整理した。結果は「約8割が達成か進展中」との評価。一方で米兵犯罪に絡む日米地位協定の見直しなど9項目は未達成で、市は引き続き国と協議を続けるとした。

 国は同月17日、市が求めた地域振興策などに回答。22年度までの米軍再編交付金の期間延長と増額を「前向きに検討することを確約する」と強調し、小中学校の給食費無料化の財源確保なども相次いで打ち出した。

 市が同月21、23日に市内4会場で開いた住民説明会。「どんな騒音被害が出るか想像もできない」「財源確保につながるなら移転は仕方ない」―。延べ492人が参加し、賛否の声が渦巻いた。

 福田良彦市長は6月23日の市議会本会議で「審念熟慮した結果、受け入れる」と表明。同月30日までに和木、周防大島両町長、村岡嗣政知事も次々と容認を決断し、7月11日に知事と3市町長たちが国へ受け入れを伝えた。ただ騒音、墜落事故や治安の課題は積み残されたままだ。

■米軍の拠点化

情報把握 後手に回る

 8月9日、第1陣としてE2D早期警戒機5機が岩国基地に到着した。同機は「配備前訓練」の名目で2月にも飛来しており、在日米海軍はこの時点で米本国から岩国へ拠点を移したと説明する。

 移転は混乱続きだった。11月22日、同基地から空母ロナルド・レーガンに向かっていたC2輸送機が東京・沖ノ鳥島沖で墜落。同月24、25日には、FA18スーパーホーネット戦闘攻撃機8機とEA18Gグラウラー電子戦機3機の計11機が「運用と整備のため」(在日米海軍司令部)として同基地へ飛来した。国によると、墜落事故の影響という。

 第2陣はスーパーホーネット2部隊(24機程度)とグラウラー部隊(6機程度)。うち15機が同月28日に到着し、米軍は既に飛来していた11機とともに計26機を移転扱いに。29日以降の到着は確認されなかったが、約30機の移転は12月1日までに完了したとされる。

 同月5日、事故原因が究明されない中でC2が移転。計画では2機だったが、事故で1機に。今後の移転は、来年5月ごろとされるスーパーホーネット2部隊(24機程度)を残すだけとなった。

 国は当初、グラウラーとC2の移転時期を来年1月ごろとしていたが、米側から十分な説明もないまま前倒しされた。情報把握と県市への連絡は常に後手に回り、米側の運用に振り回される現実が浮き彫りになった。

■基地との共存

交流・商機の動き

 艦載機移転に伴い、米軍人約1700人と軍属約600人、家族約1500人の計約3800人も岩国基地へ移る見込みだ。同基地の米軍関係者は1万人を超え、岩国市の人口の1割弱に匹敵する規模になる。

 その受け皿として国は7月31日、愛宕山地区に米軍家族住宅エリアと日米で共同使用する運動施設エリアの一部を完成させた。日米両政府は8月24日の日米合同委員会で、これらの米側への提供に正式に合意した。

 野球場「キズナスタジアム」などを備えた運動施設エリアの一部は、11月4日にオープン。市は施設を活用した日米交流の促進に期待を寄せる。家族住宅エリア「Atago Hills(アタゴヒルズ)」は全262戸で、12月6日に入居が始まった。

 移転を「商機」と捉える経済界の動きも活発化した。岩国商工会議所は8月22日、米軍関連の事業を支援する「米軍ビジネスサポートセンター」を開設。12月には外国人客の利用を歓迎する「ウエルカムステッカー」の販売を市内の事業者向けに始めた。

 同基地の近隣地域では小売店の新装開店が続き、新たな出店計画も複数ある。11月に基地近くで移転オープンしたスーパーは店内に英語表記の案内板を設置。買い物ツアーも受け入れるなど、基地関係者の呼び込みに力を入れている。

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■1月

 5日 在日米海軍司令部は、在日米軍再編に伴う米軍岩国基地(岩国市)への     厚木基地(神奈川県)からの空母艦載機移転が「今年後半に開始される     予定」と発表
 18日 岩国基地に、ステルス戦闘機F35Bの第1陣が米アリゾナ州海兵隊      ユマ基地から到着。米国外では初配備
 20日 国は市などに、艦載機移転の開始時期を「早ければ7月以降」と伝達

■2月

 2日 岩国基地に、米海軍の空母艦載機E2D早期警戒機5機が米バージニア     州ノーフォーク基地から到着
 5日 菅義偉官房長官が市を訪問。村岡嗣政知事、福田良彦市長と会談し、艦     載機移転計画に理解と協力を求める

■3月

 1日 米軍住宅などが整備される同市愛宕山地区の用地約75ヘクタールが、     日米合意に基づき米側へ提供される
 6日 福田市長は艦載機移転後の基地周辺住民の生活環境について「(日米両     政府が移転計画に合意し、基地滑走路の沖合移設前だった)2006年     当時に比べ、全体として悪化する状態は生じない」と発言。村岡知事も     同日、同様の発言
 14日 廿日市市議会は艦載機移転計画などに反対する意見書案を可決

■4月

 20日 岩国商工会議所と岩国基地は、基地の備品や業務の発注方法につい      て、地元関係者向けの説明会を開催

■5月

 5日 岩国基地で「フレンドシップデー」。約21万人が来場
 12日 岩国市は、国に求めた安心安全対策を「約80%が達成または進展      中」と評価
 15日 福田市長は、政府が米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設先と      する名護市辺野古沿岸部を視察
 17日 岩国市や山口県が要望していた地域振興策などに国が回答。22年度      までの市町向け米軍再編交付金の期間延長と増額について「前向きに      検討することを確約する」とした▽福田市長は普天間飛行場の移設に      ついて「見通しは立った」との見解を表明
 21日 空母艦載機移転計画を巡る住民説明会が市の美和町、周東町、由宇町      の3会場であった。23日は三笠町のシンフォニア岩国で開催=写真
 24日 岩国基地にEA18Gグラウラー電子戦機4機が一時配備される。2      7日からの計画だったが市や県への事前通告なく前倒しされ、25日      に残り2機も飛来

■6月

 16日 岩国基地の騒音被害を巡り、周辺住民654人が損害賠償や夜間早朝      の飛行、米空母艦載機移転の差し止めなどを国に求めた岩国爆音訴訟      の控訴審の第1回口頭弁論が広島高裁であった
 23日 福田市長が市議会本会議で、艦載機移転計画の容認を表明▽通津小      (同市)で市内初のミサイル飛来想定訓練があった
 27日 周防大島町の椎木巧町長と和木町の米本正明町長が、それぞれ町議会      本会議で艦載機移転計画の容認を表明
 30日 村岡知事が県議会本会議で艦載機移転計画の容認を表明

■7月

 3日 市が、5月下旬から岩国基地に一時配備されていたグラウラー6機が同     日に岩国を離れたと発表
 7日 県議会は本会議で、艦載機移転計画を巡り、村岡知事の容認判断を     「妥当」とする意見書案を賛成多数で可決
 10日 岩国基地に配備されているKC130空中給油機の同型機が、米南部      ミシシッピ州の畑に墜落。乗員16人全員が死亡▽市中心部の上空で      夜間に岩国基地所属機が訓練し、市に夜間離着陸訓練(NLP)を除      き1日当たり過去最多の155件の苦情が寄せられる
 11日 福田市長と村岡知事たちが、菅官房長官や外務、防衛両相に艦載機移      転容認を伝達
 31日 愛宕山地区に米軍家族住宅と野球場「キズナスタジアム」が完成

■8月

 9日 厚木基地からE2D早期警戒機5機が岩国基地に到着し、艦載機移転が     始まる
 14日 岩国基地に移転したE2Dや移転予定のFA18スーパーホーネット      戦闘攻撃機が同基地を離着陸。盆の飛行自粛なし
 17日 海上自衛隊岩国基地で、訓練中のCH101ヘリコプターが横転
 22日 岩国商工会議所が米軍基地に関連するビジネスを支援するセンターを      開設=写真
 24日 日米両政府は日米合同委員会で、日本側が愛宕山地区に整備した米軍      家族住宅エリアと運動施設エリアなどの建物392棟や野球場を米側      に提供することで正式合意
 29日 岩国基地を飛び立った普天間飛行場所属の輸送機オスプレイ1機が大      分空港に緊急着陸▽航空自衛隊が地対空誘導弾パトリオット(PA      C3)の機動展開訓練を岩国基地で実施

■9月

 1日 厚木基地で空母艦載機の陸上空母離着陸訓練(FCLP)が5年ぶりに     実施される。3日を除いて5日まで続いた
 6日 岩国基地配備のKC130が、プロペラの一つが止まった状態で同基地     に着陸
 15日 広島高裁で岩国爆音訴訟の控訴審の第2回口頭弁論

■10月

 6日 市は、市と岩国基地が、大規模地震などの発生時に連携して対応に当た     る防災協定を2日に締結したと発表
 11日 広島県北広島町上空で岩国基地所属の海兵隊機が火炎弾「フレア」の      射出訓練を実施
 12日 岩国基地で米軍機のトラブルがあり、岩国錦帯橋空港に着陸予定の全      日空機が同空港に着陸できず
 25日 中国地方整備局は国道188号岩国南バイパスの整備方針案を提示

■11月

 4日 愛宕山地区にできた野球場エリアがオープンし、市民と米軍の共同使用     が始まる
 9日 F35B3機が岩国基地に新たに到着
 15日 F35B3機が岩国基地に新たに到着し、米側が計画した16機体制      が整う
 21日 艦載機移転計画に伴い、岩国基地に完成した整備格納庫が報道陣に公      開される
 22日 東京・沖ノ鳥島沖の公海上で、岩国基地に移転予定だった空母艦載機      のC2輸送機が墜落。3人が行方不明に
 24日 C2墜落を受け、空母艦載機のスーパーホーネットなど9機が岩国基      地に飛来。25日にも2機▽広島高裁で岩国爆音訴訟の控訴審の第3      回口頭弁論
 28日 空母艦載機移転の第2陣のスーパーホーネットなど15機が岩国基地      に到着=写真
 29日 中国四国防衛局は空母艦載機移転で騒音悪化が予想される周防大島町      の大島中に騒音測定器を設置
 30日 米国のウィリアム・ハガティ駐日大使が岩国市を初訪問し、キズナス      タジアムなどを視察

■12月

 1日 スーパーホーネットが岩国基地で移転後初めてとみられる訓練を開始
 2日 市が、空母艦載機第2陣の移転が完了しているとの連絡を1日に中国四     国防衛局から受けたと発表
 5日 岩国基地にC2が1機到着
 6日 岩国基地で滑走路の運用時間(午前6時半~午後11時)外に米軍機が     離着陸。8日まで続く▽愛宕山地区の米軍家族住宅への入居が始まる
 13日 海上自衛隊岩国基地で救難飛行艇US1Aの除籍記念式典があった▽      那覇市での交通死亡事故を受けた在日米軍の飲酒規制が解除される
 18日 オスプレイが岩国基地を拠点に低空飛行訓練をしたことが判明
 22日 政府は米軍再編で基地負担が増える都道府県向け交付金について、1      8年度から前年度比2.5倍の年50億円に増額する方針を決定。ハ      ード事業に限っている使い道もソフト事業に広げる。山口県に全額交      付

(2017年12月30日朝刊掲載)

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