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連載・特集

ヒロシマの記録2017 1~6月 核禁止条約 希望の光

 核兵器のない平和な世界へ、一筋の希望の光が人類に差した。

 米ニューヨーク・国連本部での多国間交渉で、核兵器禁止条約が7月に制定された。核を持たない有志国が主導し、3月の第1回会合で、広く核兵器に関する行為を禁止する方向で合意。6月からの第2回では草案に明示されていなかった、使用するとの「威嚇」を禁止事項に加えた。

 保有9カ国や、日本など「核の傘」の下にある大半の国が参加しなかった分、核抑止力自体を否定する強い条約へと振れた。ただ、核兵器の廃棄の検証方法は具体的には定められていない。実効性を高める課題を条約発効後の締約国会議に積み残した。

 暗雲も漂う。国際社会の努力を無視するかのように、北朝鮮は核・ミサイル開発を進める。ミサイル発射を繰り返し、グアム周辺に向ければ、島根や広島各県を通過すると名指し。9月には6回目の核実験を強行した。広島原爆の約10倍の爆発規模との推定もあり、被爆地に怒りと嘆きが広がった。新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)の「発射実験成功」も発表した。

 トランプ米大統領は1月に就任後、ほぼ北朝鮮への「圧力」一辺倒の姿勢を取る。米国は国連安全保障理事会での制裁決議を主導し、トップ自ら、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長をののしる。米国と同盟を組む日本政府も圧力路線に同調。日本海上空で、航空自衛隊の戦闘機と、核兵器の搭載が可能な米空軍のB52戦略爆撃機が8月に共同訓練していたと後日、判明した。

 核兵器の廃絶へ世界が行きつ戻りつする中、ノルウェー・ノーベル賞委員会が10月、非政府組織(NGO)の立場で核兵器禁止条約の制定に貢献したとして「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN(アイキャン))へのノーベル平和賞授賞を発表。あの日の惨禍を訴えてきた被爆者の苦闘と、若者の行動力が結びついた一大キャンペーンへの称賛と、今後への期待が込められている。

 「私たちにとって核兵器禁止条約が光です」。12月、ノルウェー・オスロでの授賞式で、ICANと活動を共にする広島市南区出身の被爆者サーロー節子さん(85)=カナダ・トロント=は言った。3月末で世界の被爆者は16万人余り、平均年齢は81歳を超えた。被爆73年の2018年、歩みを早めよう。光の差す方へ。(岡田浩平)

1月

1日 北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が「新年の辞」で、ICBMの発射実験    の準備が「最終段階」に入ったと表明
6日 広島市が、原爆資料館本館下の発掘調査で、被爆時の地層の下から江戸期    のものとみられる土葬墓の跡が見つかったと発表
9日 パキスタン軍が、核弾頭を搭載可能な潜水艦発射弾道ミサイル(SLB    M)の発射実験に初めて成功したと発表
18日 米軍岩国基地に最新鋭ステルス戦闘機F35Bの第1陣が到着。米国外     では初めての配備
19日 広島市が、被爆建物の旧日本銀行広島支店の一部を博物館として活用す     る方針を固めたと判明。被爆前後の市民の暮らしや、海外移民の歴史を     紹介する資料を常設展示へ
20日 米国でトランプ大統領が就任
24日 原爆資料館が、原爆に関する約2100点の写真を米議会図書館、米海     軍歴史遺産部、米国立空軍博物館の3館から収集したと発表。持ってい     なかった市街地の被害の空撮や復興期の貴重なカットを確認
26日 米誌が、地球最後の日までの残り時間を概念的に示す「終末時計」が2     016年から30秒進み、残り2分30秒になったと発表。1953年     の「2分」に次ぐ短さ
27日 復興期の広島で撮影された日仏合作映画「ヒロシマ・モナムール」に主     演したフランス女優エマニュエル・リバさんが89歳で死去

2月

1日 広島市の有識者懇談会が被爆建物の旧広島大理学部1号館のE字形の建物    のうち、少なくとも正面の棟をI字形に残し、平和教育・研究の拠点や市    民の交流施設に使う方針案に合意▽イランのデフガン国防軍需相が中距離    弾道ミサイルの発射実験をしたと公式に認める
3日 トランプ米政権がイランに追加経済制裁を科すと発表
9日 韓国紙の中央日報が、北朝鮮が核弾頭を最大60個製造できる能力を持っ    ていると、米韓の情報当局が判断していると伝える▽フランス国民議会が    ポリネシアなどでの核実験により被曝(ひばく)した人々への広範な補償    に道を開く法案を全会一致で可決
10日 トランプ米大統領就任後初の日米首脳会談。発表した共同声明で「核     の傘」を日本に確約
12日 北朝鮮が北西部から弾道ミサイルを発射。朝鮮中央通信は13日に新型     の中長距離弾道ミサイル「北極星2」の発射実験に成功したと報じる
16日 核兵器禁止条約の交渉参加国が米ニューヨークの国連本部で準備会合を     開き、最初の交渉日程で「中核となる禁止事項」など条約の根幹部分を     話し合うと基本合意
17日 広島や山口など5県の被爆2世22人が、国が2世への援護措置を怠っ     ているのは幸福追求権を保障した憲法に反するとして、1人当たり10     万円の慰謝料を求める訴訟を広島地裁に起こす。2世の集団訴訟は初め     てで、遺伝的な影響の有無などが争点に
19日 長崎での被爆体験を基にした小説「祭りの場」で知られる作家林京子さ     んが86歳で死去
23日 トランプ米大統領がロイター通信のインタビューで、世界最大級の核保     有国としての優位性を保つため核戦力を拡大する意欲を表明。米ロの新     戦略兵器削減条約(新START)見直しも示唆する
24日 原爆資料館の2016年度の入館者数が1991年度を上回り25年ぶ     りに過去最多を更新。年度末までに173万9986人へ伸ばす。うち     外国人も36万6779人で4年連続で最多更新

3月

1日 静岡県焼津市のマグロ漁船第五福竜丸が米国の水爆実験で被曝して63年    のビキニデー
6日 北朝鮮が北西部東倉里付近から東方向に弾道ミサイル4発を発射
7日 国連安全保障理事会が、北朝鮮の弾道ミサイル発射が過去の安保理制裁決    議の「重大な違反」に当たるとして強く非難し、核・ミサイル開発の自制    を求める報道声明を発表
11日 東日本大震災と東京電力福島第1原発事故の発生から6年
20日 広島で被爆し、被爆者医療に尽くした医師の肥田舜太郎氏が100歳で     死去
22日 皇太子ご夫妻の長女愛子さまが中等科卒業記念文集に寄せた作文を宮内     庁が公表。修学旅行で広島市を訪れたといい、「唯一の被爆国に生まれ     た私たち日本人は、自分の目で見て、感じたことを世界に広く発信して     いく必要があると思う」と記される
24日 厚生労働省が、2015年度の被爆者実態調査の結果を公表。自宅で暮     らす70歳以上の被爆者の3割弱は障害があったり介助を必要としたり     して、同年代より11ポイント高い
27日 核兵器禁止条約の制定交渉会議が米ニューヨークの国連本部で開幕。米     国はボイコットを表明
28日 日本政府が核兵器禁止条約の制定交渉会議への不参加を表明。岸田文雄     外相(当時)は「核兵器のない世界に資さないのみならず、核兵器保有     国と非保有国の対立を一層深め、逆効果になりかねない」と説明
29日 広島市の松井一実市長が世界遺産の原爆ドームと平和記念公園周辺の眺     望景観の在り方について市景観審議会に諮問。ドーム北側エリアの建物     の高さの法規制を議論
31日 核兵器禁止条約の第1回制定交渉会議が終わり、広く核兵器の使用、開     発、保有などを対象にした「禁止先行条約」を作る方向で大筋一致▽広     島市が原爆資料館本館下の発掘調査を終える。被爆時の地層から、原爆     で壊滅した旧中島地区の街並みの遺構や生活用品が出土

4月

5日 北朝鮮が日本海側の東部新浦付近から北東方向に弾道ミサイル1発を発射
7日 広島県が核軍縮、核不拡散、核物質の安全管理の3分野について、201    6年の取り組みで36カ国を採点した「ひろしまレポート」を発表。日本    は核兵器禁止条約の交渉会議開催に反対したが、核軍縮検証の国際会議を    主催したことなどから評価上昇▽米国家安全保障会議(NSC)がトラン    プ大統領に対北朝鮮政策見直しの一環として、核兵器を在韓米軍に再配備    することを提案したと、米NBCテレビが報道
9日 高校生平和大使の運営メンバーらが、歴代大使が加わる新たな組織を発足
11日 イタリアで先進7カ国(G7)外相会合があり、核不拡散・軍縮に関す     る声明を発表。「核兵器のない世界」を目指し、核保有国と非保有国の     協力を呼び掛けるなど16年4月のG7広島外相会合で発表した「広島     宣言」の基本理念を継承する
16日 北朝鮮が、新浦付近で中距離とみられる弾道ミサイル1発を発射、直後     に爆発する
18日 広島市が16年度に実施した市内の被爆樹木全161本の樹勢調査の結     果を公表。95本が健全だが、66本が生育状態に何らかの問題がある     と診断した
23日 福山市原爆被害者友の会が、市神辺町原爆被害者の会との合流を決定
24日 広島城本丸跡にある被爆建物、旧日本軍の中国軍管区司令部跡(旧防空     作戦室)の老朽化が進み市が内部見学を中止
26日 原爆資料館が、常設展示を全面的に見直した東館の一般公開を2年8カ     月ぶりに始める。入れ替わる形で本館がこの日から閉鎖▽被爆建物の広     島市水道資料館が展示を刷新し、約3年ぶりに再開館▽トランプ米政     権が、北朝鮮について「差し迫った安全保障上の脅威で、外交の最優先     課題」とする声明を発表。核放棄を迫るため、経済制裁を強化し外交圧     力を加えることで、対話を模索するとの基本方針を明かす
28日 国連安保理が、北朝鮮問題を討議する閣僚級会合を開く。主宰したティ     ラーソン米国務長官が演説で、北朝鮮の核・ミサイル開発の進展によ     り、日本と韓国への核攻撃の脅威が「現実のものだ」との認識を示す。     岸田文雄外相も「この脅威はただの仮想ではない。一般市民にとってま     さに現実だ」と訴え
29日 北朝鮮が、内陸部の平安南道北倉付近から北東方向に弾道ミサイル1発     を発射

5月

1日 国連の軍縮担当上級代表(事務次長)に中満泉氏が就任
2日 岸田文雄外相がオーストリア・ウィーンで開幕した2020年核拡散防止    条約(NPT)再検討会議の第1回準備委員会で演説。北朝鮮の核・ミサ    イル開発を脅威と強調し、NPT体制の強化を訴え▽広島県の湯崎英彦知    事がウィーンで、国連軍縮研究所との協力覚書を締結。同研究所が地方政    府と協定を結ぶのは初めて
3日 湯崎知事がバチカンでローマ法王フランシスコの一般謁見(えっけん)に    参列し、広島訪問を招請
5日 湯崎知事がスウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)    を訪問し、核軍縮や平和研究での協力に関する協定を締結
11日 NPT再検討会議準備委でフランスと韓国が、北朝鮮の核実験や弾道ミ     サイル開発を「強く非難」し、核・ミサイル開発計画の完全放棄を求め     る声明を共同で提出。日米など60カ国が賛同
12日 NPT再検討会議準備委が、NPT体制や核軍縮の重要性を強調し、核     兵器禁止条約への賛否や北朝鮮の核開発に対する非難も盛り込んだ議長     総括を発表し閉幕
14日 北朝鮮が、北西部亀城付近から東北東方向に弾道ミサイル1発を発射▽     核戦争防止国際医師会議(IPPNW)日本支部の代表支部長に、日本     医師会会長の横倉義武氏が就任
19日 原爆による広島壊滅の第1報を発した岡ヨシエさんが86歳で死去▽1     983年に核戦争を未然に防いだとして「世界を救った男」と称される     旧ソ連軍人スタニスラフ・ペトロフ氏が77歳で死去
21日 北朝鮮が平安南道北倉付近から弾道ミサイル1発を発射
22日 核兵器禁止条約制定交渉会議のホワイト議長が条約草案を公表。前文で     広島、長崎の被爆者に言及し、「核兵器の犠牲者の苦しみを明記するの     が目的だ」と説明
26日 安倍晋三首相がトランプ米大統領とイタリアで会談し、北朝鮮問題に関     して、対話ではなく圧力をかけることが必要だとして日米の連携を確認     ▽イタリアでのG7首脳会議(サミット)で、安倍首相が北朝鮮問題に     関して「新たな段階の脅威」になったとして、核・ミサイル開発阻止へ     圧力強化を呼び掛け
27日 オバマ米大統領(当時)の広島訪問から1年▽NPO法人ノーモア・ヒ     バクシャ記憶遺産を継承する会が、被爆者の手記を電子データ化して、     ウェブサイト上で紹介するプロジェクト「未来につなぐ被爆の記憶」を     始めると発表
30日 米ニューヨークでの核兵器禁止条約制定交渉会議へ被爆者を派遣する     ため、インターネット上で資金の提供を募ってきた「ヒバクシャ国際署     名連絡会」が、当初目標の100万円を上回る157万7千円が集まっ     たと明かす
31日 16年に広島市を訪れた観光客が1261万1千人で、6年連続で過去     最多を更新したと市が発表

6月

1日 広島市が原爆資料館本館の耐震改修の作業に着手
2日 米ロ主導の「核テロ対策国際会議」が東京都で2日間の全体会合を終え、    運搬される核物質の検知能力や、押収した放射性物質を分析して出元を追    跡する鑑識技術を連携して向上させる方針で一致▽国連安全保障理事会が    公開会合を開催。北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の側近を含む14個人    と4団体を資産凍結・渡航禁止の対象に新たに追加する米主導の制裁強化    決議案を全会一致で採択
4日 国と山口県、阿武町は弾道ミサイル発射を想定した住民参加の避難訓練    をし、約280人が参加。中国地方では初
6日 広島市内の団体に所属して体験証言をしている被爆者の実数が少なくとも    150人いると原爆資料館の初の実態調査で判明し、中国新聞が報道▽関    西電力が高浜原発3号機を再稼働▽茨城県大洗町にある日本原子力研究開    発機構の「大洗研究開発センター」の燃料研究棟で、男性作業員5人が機    器の点検中、手袋や靴に放射性物質が付着
7日 日本被団協が定期総会で代表委員に田中熙巳(てるみ)事務局長、事務局    長に木戸季市事務局次長を選ぶ
9日 経済産業省が、広島県内の自治体を対象に、原発から発生する高レベル放    射性廃棄物(核のごみ)の最終処分の説明会を広島市で開き、7人が出席    ▽「黒い雨」を浴びて健康被害を受けたのに被爆者健康手帳などの交付申    請を却下したのは違法として、広島市と広島県に却下処分の取り消しを求    めた集団訴訟で、同市と広島県安芸太田町、府中町の74~85歳の11    人が広島地裁に追加提訴。原告数は計75人に
10日 広島市立小中学で原爆の日の登校日がなくなる見通しと判明。教職員の     人事権限が丸ごと市へ移り、市職員は8月6日を休日とする条例が適用     されたため
12日 米国広島・長崎原爆被爆者協会会長の据石和さんが90歳で死去
15日 核兵器禁止条約の第2回制定交渉会議が、米ニューヨークの国連本部で     開幕。広島市の松井一実市長が条約採択を訴え
16日 国連本部を訪れた広島、長崎の被爆者が、「ヒバクシャ国際署名」29     6万3889人分の目録を交渉会議のホワイト議長に届ける
19日 放射線影響研究所が設立70年記念式典を広島市で開催。丹羽太貫(に     わ・おおつら)理事長があいさつで、設立当初に被爆者の治療より調査     を優先した時期があったとして「重く受け止め、心苦しく残念に思って     いる」と表明▽長崎大核兵器廃絶研究センターが、米ロなど9カ国が6     月時点で計約1万4900発の核弾頭を保有しているとの推計結果を     発表。前年から約450発減も、米ロの近代化計画に警鐘を鳴らす

(2017年12月31日朝刊掲載)

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