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連載・特集

イワクニ 地域と米軍基地 各地からの報告 <1> 岩国

運用拡大 国説明と差

 聞き慣れない低音が広島市安佐南区の上空に響いた。昨年12月9日午後2時15分ごろ。両翼端のプロペラを前傾させて北へ進む二つの灰色の機体は、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)所属の輸送機オスプレイ。数分後に再び上空に姿を現し、南へ消え去った。直前に岩国基地(岩国市)を離陸した機体とみられる。

米軍 低空認める

 「沖縄ほど飛行規制が厳しくなく、沖縄ではできない訓練が可能。まさに今、戦術的な低空飛行訓練をしている」。数日後、岩国基地は公式ホームページの記事で、オスプレイの運用部隊が岩国で訓練を始めたと伝えた。

 厚木基地(神奈川県)の米空母艦載機61機の岩国移転は昨年8月9日に始まった。第1陣はE2D早期警戒機5機。11月28日~12月1日にFA18スーパーホーネット戦闘攻撃機など第2陣約30機が移り、移転は本格化した。

 在日米軍再編の一環で着々と進む岩国の巨大軍事拠点化。呼応するように、基地の運用拡大ととれる動きが相次いでいる。オスプレイの訓練はその象徴と言える。同機の中継地の位置付けだった岩国で過去、訓練が公になった例はない。それを今回、米軍自身が明らかにした。

 地元は驚いた。国の事前説明と全く違っていたからだ。中国四国防衛局は12月にオスプレイが岩国基地を使う理由について、周辺自治体に「日米共同訓練の機体整備などのため」とだけ伝えていた。

 国の説明は、その後も歯切れが悪い。「米側から訓練に参加する範囲で飛行したと説明を受けた」。防衛省は12月22日、事実確認を求めた広島県に回答した。米軍自ら低空飛行訓練の実施を明言したにもかかわらず、同省の回答はその有無すら触れなかった。

 在日米海兵隊を統括する第3海兵遠征軍(司令部・沖縄)も、中国新聞の取材に「安全上の理由から具体的な飛行ルートなどは論じない」とした。

事前公表控える

 米軍の意向を推し量るような姿勢は、基地を抱える岩国市にもある。昨年12月上旬、3日連続で未明や早朝の岩国の街を爆音が襲った。岩国基地と市、山口県、国でつくる岩国日米協議会で確認している滑走路の運用時間(午前6時半~午後11時)外に米軍機が離着陸した。市には計27件の苦情が寄せられた。

 市は時間外運用を把握していたが、3日間とも市民に事前発表しなかった。事前に公表することを控えるよう基地側から求められていたためだ。「基地との信頼関係」を重視した結果だった。

 12月15日には、オスプレイが着陸後すぐに離陸する「タッチ・アンド・ゴー」のような動きを繰り返したことも初めて確認された。運用拡大の様相を強めながら、岩国基地は北朝鮮情勢を背景にきなくささも増す。米空母3隻が日本海に展開する異例の大規模演習があった11月中旬、移転前のスーパーホーネットが頻繁に離着陸した。11月末には、三沢基地(青森県)からF16戦闘機が18機の大編隊で飛来した。

 基地近くに住む建築業岡崎尊文さん(51)はつぶやいた。「岩国での訓練はなし崩し的に広がるだろう。移転を受け入れた以上、いまさらどうすることもできない」(松本恭治)

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 在日米軍再編に伴い、今春までに極東最大級の米軍基地へと変貌する岩国。再編は岩国だけでなく、基地と関係する地域を揺さぶり続けている。各地を巡り、現状を報告する。

米空母艦載機移転計画
 在日米軍再編の一環で日米両政府が2006年5月に合意。米軍厚木基地(神奈川県)から岩国基地(岩国市)へ61機を移す計画で、市や山口県などは17年7月、国に容認を伝えた。8月に第1陣のE2D早期警戒機5機が到着。11~12月にFA18スーパーホーネット戦闘攻撃機2部隊(24機程度)とEA18Gグラウラー電子戦機部隊(6機程度)の計約30機、C2輸送機1機が配備された。18年5月ごろまでに残るスーパーホーネット2部隊(24機程度)が移る予定。

(2018年1月3日朝刊掲載)

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