×

社説・コラム

社説 北朝鮮の「軟化」 真剣な姿勢か 見極めを

 韓国と北朝鮮による南北高官級会談が9日、板門店で開かれることになった。金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が年明けに平昌(ピョンチャン)冬季五輪への参加を含め、南北関係改善に意欲をほのめかしたことから韓国側が会談を呼び掛け、きのう北朝鮮側が応じた。実現すれば約2年ぶりの南北会談であり、緊張緩和への第一歩として期待したい。

 会談では「(北朝鮮の)五輪参加をはじめとした南北関係改善問題」を扱うという。だが北朝鮮の真意がよく分からない。米国への挑発を続け、核開発も続けると明言している。朝鮮半島の非核化へ、予断のない対応が求められる。

 金委員長は1日発表した「新年の辞」の中で、平昌五輪について「成功裏に開催されることを心から願う」とし、代表団派遣の用意があるという考えを示した。これに韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は「歓迎する」と表明し、会談開催を提案していた。

 北朝鮮は3日、板門店の南北直通電話を再開させるなど、関係改善や対話の模索へ意欲的な動きを見せてもいた。平昌五輪を目前に控え、北朝鮮が態度を軟化させたように映る。

 文氏もトランプ米大統領に米韓合同軍事演習の中止を要請。北朝鮮が挑発行動を取らぬことを前提に、軍事演習を五輪・パラリンピック後に延期した。

 北朝鮮の五輪参加示唆を契機に、緊張緩和に向けた対話の条件も整いつつある。

 緊迫状態にある朝鮮半島情勢にとって、真剣な対話が唯一の平和解決の道であるのは言うまでもない。とはいえ、北朝鮮の姿勢には疑念が残る。

 「核のボタンが机の上に常に置かれている」と、金委員長は「新年の辞」の中で米国を威嚇してもいるからだ。核弾頭と弾道ミサイルの量産、実戦配備に拍車を掛けることを命じてもいる。米国に対抗するために、核を決して手放さない姿勢を改めて強調した。

 これでは、対話を通して本当に緊張を緩和するつもりがあるのかどうか、疑わしく思える。実際、北朝鮮で弾道ミサイルの発射に向けた準備が進んでいるとの報道もある。

 米韓の関係にくさびを打ち、分断させたいのではないか―。北朝鮮の真意について米国がそう勘繰るのも無理はなかろう。制裁一辺倒の米国や日本のほか、国連などの包囲網に風穴をあけたい狙いがあるのかもしれない。まずは北朝鮮の「軟化」とその思惑を、冷静に見極めるべきだ。

 ところがトランプ氏は「私の核のボタンの方がより大きく強力で、実際に機能する」などとやり返していた。核戦力を競うという愚かな応酬が米朝間で繰り広げられているのは、何とも嘆かわしい。

 何より重要なのは、北朝鮮に核開発を断念させ、朝鮮半島を非核化することだ。北朝鮮の戦略に韓国が取り込まれたり、非核化という目的が見失われたりしてはならない。日本は米韓と密接に連携し、対話を注視することが必要である。

 南北会談で韓国は北朝鮮に対し、前提条件なしで半島非核化への対話に応じるように促すべきだ。再び弾道ミサイルが発射されれば、五輪参加はもとより対話の機運も台無しになる。思いとどまらせねばならない。

(2018年1月6日朝刊掲載)

年別アーカイブ