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連載・特集

イワクニ 地域と米軍基地 各地からの報告 <4> 沖縄㊤

地位協定 高まる不満

 フィリピン海を望む沖縄県北部の東村高江。牧草地の一画がブルーシートで覆われていた。めくると黒ずんだ地面が姿を現した。昨年10月11日、米軍普天間飛行場(同県宜野湾市)所属の大型輸送ヘリコプターが不時着、炎上した現場だ。

 「日米地位協定というものを初めて意識した。あれほど厳しく排除されるとは」。案内してくれた牧草地の所有者、西銘(にしめ)晃さん(64)の言葉には、憤りと驚きが相半ばしていた。

 西銘さんの自宅は現場からわずか約300メートル。その日、別の牧草地での作業を終えて自宅に戻る途中、黒煙に気付いた。駆け付けると、ヘリの乗組員7人が遠巻きに燃えさかる機体を眺めていた。間もなく米軍と沖縄県警が規制線を張り巡らした。7人は県警の聴取を受けることなく、迎えのヘリに乗り込んだ。

収穫 1年できず

 西銘さんが次に自分の牧草地に入ることができたのは9日後。畜産農家に販売するため収穫する直前だった現場一帯の牧草は、ヘリの残骸を回収した重機に踏み荒らされていた。30年以上、手入れしてきた土は断りなくえぐり取られ、持ち去られた。土砂流出を防ぐためシートは外せず、向こう1年はこの区画で収穫できない。事故原因についても米軍からいまだに説明はないという。

 原因を追究する沖縄県警の捜査には日米地位協定が立ちはだかった。在日米軍の法的地位を定める協定。米軍の同意がなければ、日本側は事故機を含む米軍の「財産」の捜索や差し押さえはできない。今回も県警が本格的な現場検証に入れたのは、米軍が残骸を回収した後だった。

 米海軍安全センターが、4段階で最も重大な「クラスA」と判断したほどの今回の事故。米軍はしかし、事故原因を明らかにしないまま、わずか1週間後に同型機の飛行を再開した。

 西銘さんが住む高江地区を取り囲むように、沖縄県最大の軍事演習場、米軍北部訓練場がある。輸送機オスプレイやヘリが地区住民の頭上を頻繁に飛び交っていた。「集落上や夜間の飛行中止を訴えても届かない」。同区長の仲嶺久美子さん(67)は不信感をあらわにした。

抜本改定迫る声

 米軍による重大な事件事故が起きるたび問題視される不平等な地位協定。抜本改定を求める声が今、沖縄で改めて熱を帯びている。

 沖縄県は昨年9月、17年ぶりに地位協定の見直しを求める要請書を日本政府と在日米国大使館に提出。米軍機の事故の際、日本側が現場を管理、検証などをする権利の明記を求めた。要請文は「県民の怒りは限界を超えつつある」と強く改定を迫るが、日本政府に動く兆しはない。協定は1960年の発効後、一度も見直されたことはない。

 「沖縄の問題は、いつか岩国で起きるかもしれない」。地位協定に詳しい沖縄国際大の前泊博盛教授(57)は警鐘を鳴らす。「協定に対する市民の理解と関心を高め、地域で講じることができる対策を議論すべきだ。深刻な事件事故が起きてからでは遅い」

 ヘリの不時着事故から約2カ月後の昨年12月15日、西銘さんは米軍から感謝状を贈られた。しかし、「感謝される覚えはない。事故原因を説明するのが先」と村を通じて返した。「米軍は、ここに人が暮らしているのを無視している」。西銘さんは、踏み荒らされた牧草地を沖縄の現状に重ね合わせた。(明知隼二)

日米地位協定
 日米安全保障条約に基づき、在日米軍の法的地位や基地の管理、運用を定めた協定。米軍人や軍属が起こした公務中の事件事故に関し、米側に優先的な裁判権があると規定。公務外でも米側が先に容疑者を拘束した場合、身柄は原則として起訴まで日本側に引き渡さない。関連する合意文書では、基地の外でも日本が米軍財産の捜索や差し押さえの権利を行使しないことなどを定める。協定の運用改善については国と在日米軍司令部などでつくる「日米合同委員会」で協議しているが、協定自体は1960年の発効後、一度も改定されていない。

(2018年1月6日朝刊掲載)

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