連載・特集

イワクニ 地域と米軍基地 各地からの報告 <6> 馬毛島

負担たらい回し 直面

 鹿児島県の種子島の沖約12キロに浮かぶ無人島、馬毛(まげ)島(同県西之表市)。本社ヘリコプターで上空から近づくと、島を4分割するようにX字状に交差した2本の滑走路が目に飛び込んでくる。米軍岩国基地(岩国市)から南西に約400キロ。面積8・2平方キロの島は、岩国移転が始まった米空母艦載機の陸上空母離着陸訓練(FCLP)候補地だ。

 種子島空港でヘリを降り、同島北部に位置する西之表市の漁港を訪れた。「馬毛島は『宝の島』と呼ばれていた。周辺はいい漁場だったが、開発が進んでからはさっぱりだ」。漁師の古川正則さん(65)は沖合の馬毛島を見やった。

 馬毛島はかつて農家や漁師たちが暮らしていた。過疎化と並行して1970年代に開発目的の土地買収が進み、80年に無人島に。2000年代以降、島の大部分の土地を所有する東京の企業が貨物空港建設などを名目に開発を本格化。現在、南北約4200メートル、東西約2400メートルのほぼ未舗装の滑走路がある。

市飛び越え交渉

 FCLPは滑走路を空母の甲板に見立て、艦載機が「タッチ・アンド・ゴー」を繰り返す。パイロットに不可欠な同訓練は騒音が激しく、基地周辺の住民の負担は大きい。

 米軍は現在、FCLPを東京の南約1250キロにある硫黄島で暫定的に実施。厚木基地(神奈川県)から岩国への艦載機移転に伴い、硫黄島を往来する艦載機の移動距離は片道約1400キロと200キロほど延びる。米軍は事故などのリスクが高まるとして、より近い場所に代替施設を確保するよう日本側に求めている。

 岩国市は、岩国基地でFCLPをしないことを艦載機の受け入れ条件に掲げた。その中で浮上したのが馬毛島だった。島の大半を所有する企業と国との土地取得交渉は、地元の西之表市の頭越しに続いている。

 日米両政府は11年6月、島に新たな自衛隊施設を整備し、FCLPの恒久的な施設として米軍へ提供することを検討する方針で合意。防衛省は翌月に初めて地元に説明したが、その後の交渉の進み具合について同市に情報提供していない。同省は中国新聞の取材にも「交渉内容についてはコメントを控える」とした。

市長選には両派

 同省は馬毛島でのFCLP実施時、種子島には70デシベル以上の騒音は届かないとの予測を示す。誘致で市に新たに交付金が配分されたり、自衛隊員の居住が増えたりする利点も強調する。

 地元は揺れる。昨年3月の西之表市長選には賛否両派の候補者が立った。引退した前市長は反対の立場。今回も反対を掲げた八板俊輔市長(64)が初当選した。八板市長は「国は訓練の影響などを丁寧に説明すべきだ」と苦言を呈する。

 「岩国でのFCLPは容認できないが、よそに追いやればいいという話でもない」。基地監視団体リムピース共同代表の田村順玄・岩国市議(72)は基地負担のたらい回しを懸念する。「国はいつも苦しい地域に札束で負担を押し付ける」

 使用済み核燃料の中間所蔵施設誘致、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移転…。馬毛島を巡り、さまざまな構想が浮かんでは消えた。西之表市の人口は約1万6千人。進む過疎化にFCLP誘致を期待する市民は少なくない。

 馬毛島を望む漁港で出会った60代の漁師はつぶやいた。「もう漁では食べていけない。国から金が出るなら誘致してもいい」。基地から離れた地域も、在日米軍再編という国策に揺さぶられていた。(明知隼二)

陸上空母離着陸訓練(FCLP)

 空母艦載機パイロットが、滑走距離の短い空母で離着陸する際の技量を向上、維持するため、陸上の滑走路を甲板に見立てて実施する訓練。着陸後すぐに離陸する「タッチ・アンド・ゴー」を繰り返すため通常訓練より離着陸回数は多く、より激しい騒音を伴う。夜間離着陸訓練(NLP)もこの一環。米軍は現在、硫黄島(東京)で暫定的に訓練しているが、2017年9月、現地の悪天候を理由に約5年ぶりに厚木基地(神奈川県)で実施した。岩国基地(岩国市)では00年を最後に実施されていない。市と山口県は実施を認めないとの立場だが、米軍は確約していない。

 「各地からの報告」は終わります。

(2018年1月8日朝刊掲載)
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