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連載・特集

平安願い絶えぬ巡拝 広島新四国八十八カ所霊場 開創100周年

節目祝い記念事業続々

 広島県内の88カ寺を巡拝する「広島新四国八十八カ所霊場」が、ことしで開創100周年を迎えた。原爆投下による一部の廃寺で中断した時期があるが、有志の尽力で復活。信仰にあつい人だけでなく、開運や息災を願って参拝する人がいまも絶えない。節目を祝おうと、加盟寺院でつくる「霊場会」はさまざまな記念事業を展開している。(門脇正樹)

 88カ寺は、広島、呉、三原、大竹、東広島、廿日市の6市と広島県府中、海田、熊野の3町にあり、宗派の垣根を越えて名を連ねる。内訳は、真言宗66、曹洞宗11、臨済宗7、浄土宗3、浄土真宗1。本場の四国八十八カ所霊場と同様、行く先々で札を納め、読経後に納経(御朱印)を受け取る。

 霊場会は6市3町を六つのエリアに分け、車で巡回するコースを冊子やホームページなどで紹介。春と秋の行楽シーズンには、会員の僧侶が案内役を務めるバスツアーを催している。

 呉市の会社員高橋久未さん(38)は昨年10月、厄払いを目的に霊場会主催のバスツアーに参加。24人の同行者と共に広島市と廿日市市の計20カ寺を巡った。参道の石段で息を切らしながら、「仏教の信者ではないけど、お参りをしている間は、真っ黒に汚れた自分が浄化されていくような気持ちになる」とすがすがしそうに話した。

原爆投下で中断

 広島新四国八十八カ所霊場は1918年、仕事や経済的な事情で四国へ行けない人たちの受け皿をつくろうと、真言宗の寺院が中心となって始めた。当初は多い日で100人近くが巡拝したこともあったという。しかし、45年8月6日の原爆投下により、広島市中心部の寺院がほぼ壊滅。21カ寺が廃寺となり、霊場会の活動は途絶えた。

 再開したのは、高度成長期の73年。真言宗の若手僧侶でつくる密教青年会が「原爆からの復興の証しに」と加盟寺院に働き掛けた。開祖空海(弘法大師)の生誕1200年の記念事業でもあった。空いていた21カ所の霊場として新たな寺院を迎え入れ、原爆犠牲者の慰霊と世界平和への願いを込めて、平和記念公園(広島市中区)の原爆供養塔を「番外霊場」と位置付けた。

ツアーや講演会

 当時、霊場会の世話人を務めた真言宗宝勝院(第64番、中区白島九軒町)名誉住職の国分良徳さん(88)は「原爆で倒壊した寺院が復興し、活気づいていることを世に広めたかった。巡拝する人たちが戻ってきたときは、本当にうれしかった」と懐かしむ。

 霊場会は現在、景品が抽選で当たるスタンプラリーや写真コンテストなどの記念事業を展開。4月以降、100周年記念の納経などがもらえるバスツアーを催す。10月30日には広島国際会議場(中区)で、真言宗善通寺派管長で四国八十八カ所霊場総裁の樫原禅澄師の講演会などを予定している。

 高野山真言宗薬師寺(第18番、安佐南区古市)住職で霊場会事務局長の猪智喜さん(50)は「道中で人と触れ合ったり、非日常の空間を味わったりするのも醍醐味(だいごみ)の一つ。100年の歴史に思いをはせながら、さまざまな発見をしてほしい」と呼び掛けている。

(2018年1月8日朝刊掲載)

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