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ナチス収容所体験 画集に ポーランド人の遺作 日本で編集・刊行

 ナチス・ドイツのアウシュビッツ強制収容所での体験を絵に込めた「囚人番号432 マリアン・コウォジェイ画集」=写真=が出版された。ポーランド人の舞台美術家マリアン・コウォジェイ(1921~2009年)が、記憶を基に晩年に制作した鉛筆画約50点を掲載。作品に感動した兵庫医療大非常勤講師の中丸弘子さん(75)=廿日市市=たちが編集した。

 絵は、過酷な収容所生活を精細な筆遣いで伝える。むち打ちなどの拷問や餓死刑を受ける収容者、身代わりで殺害されたコルベ神父、親友の遺体を抱くコウォジェイ自身などを描く。配給のパンをてんびんで量る様子もある。骸骨のように痩せ細りながら悲しみや苦しみの表情をたたえるが、まなざしには生気が宿る。

 コウォジェイはユダヤ人ではないが、反ナチスの組織を支えるボーイスカウト活動中に逮捕され、1940年にアウシュビッツに送られた。45年に解放されるまで各地の収容所を転々とした。その後、劇場の美術監督などとして活躍。70代で脳卒中を患い、リハビリの一環で描き始めたのが収容体験を基にした鉛筆画だった。約250点を残したという。

 中丸さんは2010年、知人で当時ポーランドの米国総領事夫人だったグリンバーグ治子さん(61)=米バージニア州=の案内で、収容所跡近くの教会に展示されているコウォジェイの絵を見た。「生き生きと絵が語り掛けてくるようだった。絶望的な状況でも生きる勇気と希望が絵の中にあり、力をもらった」と振り返る。コウォジェイの妻や教会の協力を得て、グリンバーグさんと共に画集をまとめた。

 看護学生時代、アウシュビッツ体験を記したフランクルの著作「夜と霧」に感銘を受けたという中丸さん。「人の命を奪うことは誰にも許されない。生きること、命の尊さを伝えたい」と願う。

 A4判、126ページ。2700円。悠光堂。(鈴木大介)

(2018年1月13日朝刊掲載)

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