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[イワクニ 地域と米軍基地] 広島県、国に再編の交付金要望 法令見直し 高いハードル

「容認につながる」反発も

 在日米軍再編に伴う岩国基地(岩国市)への艦載機移転を巡り、広島県が国に対し、交付金支給の対象とするよう求めている。都道府県では現在、同基地がある山口だけが国の交付金の対象だが、隣接の広島も米軍機の低空飛行や騒音被害が相次ぐ。この現状への国の責任を明確にするため、広島県の湯崎英彦知事は広島への財政措置を主張している。ただ関係法令の見直しなどハードルは高い。艦載機移転に反対する住民団体には「交付金を受け取ることは、米軍機の自由な飛行の容認につながる」と反発する声もある。(胡子洋、和多正憲)

 湯崎知事は昨年12月の記者会見で「(基地からの)距離や訓練地域を勘案してほしい。原子力(発電)もそういう考え方に移りつつある」と行政区域にとらわれない財政支援の必要性を強調。1月の会見では「山口にあるが広島にない。交付金活用で騒音被害対策などを進めることが可能になる」と踏み込み、交付金を求める姿勢を鮮明にした。

山口県は計60億円

 国は2007年度に創設した市町村向けの「再編交付金」とは別に、都道府県向け交付金を15年度に創設した。防衛施設があり、「航空機40機超」「人員千人超」の増となる「特定県」が対象で、要件を満たすのは山口県だけだ。使途は「特定県が特定周辺市町村の区域内で実施する事業」と規定され、県内の岩国市と和木町、周防大島町での事業が対象となる。県は15~17年度に計約60億円を受給し、騒音対策として学校への空調機器設置のほか、道路整備や学校耐震化など幅広く活用している。

 岩国市で12日にあった岩国基地問題に関する議員連盟の総会。山口県への交付金を巡り、岩国市と県境で隣接する広島側の大竹市の市議の一人が「(離着陸時の飛行ルートの)市内の阿多田島は騒音被害が激しいエリア。飛行機に県境は関係ない」と訴えた。岩国市議会の桑原敏幸議長は「大竹市は気の毒だ。広島県にも交付金があればいいが…。われわれも協力したい」と述べた。

 広島県内は県北部が米軍機の訓練空域に指定され、低空飛行の目撃が相次ぐ。同県国際課は「再編に伴い、騒音などの被害拡大が懸念される。国の責任で対策を講じるべきで、財政措置が必要」と強調。住民不安をあおる訓練は容認しない一方、被害実態を国に示して対策を求める構えだ。ただ、広島県を交付対象にするには関係法令や要綱の見直しなどが必要となる。

求められる「協力」

 一方、県への交付金を巡っては、要綱で「米軍再編の円滑かつ確実な実施への理解と協力」が特定県に求められる。協力的でないとみなされれば、交付されない可能性もあり「アメとムチ」の側面がある。

 このため、廿日市市の市民団体「岩国基地の拡張・強化に反対する広島県西部住民の会」は、湯崎知事に発言撤回を要請。坂本千尋共同代表(64)は「交付金の受け取りは米軍機の自由な飛行の容認につながる。国に物が言えなくなる」と訴える。

 市町向けの再編交付金は岩国市、和木町、周防大島町に加え、大竹市も対象となっている。

米軍再編に伴う交付金
 都道府県向けと市町村向けがある。都道府県は山口だけが要件を満たし、国は2015年度18億5200万円、16年度20億円、17年度20億1千万円を支給。18年度は50億円に増額し、公共施設の整備などハード事業に限定していた使途をソフト事業にも広げる方針を決めた。市町村向けは米軍再編推進法に基づき、国が対象市町村を指定。再編への協力度合いや再編の進み具合に応じて支給する。広島県内では大竹市が唯一対象になっている。

(2018年1月16日朝刊掲載)

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