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社説・コラム

社説 ICAN事務局長の来日 核兵器廃絶 共に歩もう

 被爆地訪問が、核兵器をなくす活動のさらなる原動力につながると信じたい。

 「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN(アイキャン))のベアトリス・フィン事務局長が初来日し、広島、長崎両市を訪れた。被爆者たちとの連携で核兵器禁止条約の採択に尽力し、昨年のノーベル平和賞を受けた非政府組織(NGO)である。長崎大核兵器廃絶研究センターが招いた。

 広島市の原爆資料館では被爆遺品などを目の当たりにし、被爆者の肉声に耳を傾けた。核兵器の非人道性こそが禁止条約の軸だけに、被爆地訪問はかねてからの念願だったのだろう。

 被爆者の証言については、これまでもNGO活動を通じ、触れていたらしい。とはいえ被爆地に身を置いて、核被害の実情にじかに触れた体験は別物であり、大きなインパクトだったに違いない。

 記者会見でも「こんなことがまた起こるのは受け入れ難いと、決意を新たにした」と話していた。ICANの活動をより強固なものにする礎としてもらいたい。

 一方で、「被爆地が体現している価値観と、日本政府の政策の間には大きなギャップがある」と実感したようだ。

 申し入れていた面会を安倍晋三首相に断られ、失望を深くしたのではないか。菅義偉官房長官は「日程の都合上。それ以上でもそれ以下でもない」と説明していた。

 日本政府は条約について、「核兵器廃絶というゴールは同じだが、プロセスとアプローチが違う」として反対の立場を取っている。目指すところが同じなら、被爆国のリーダーとしてなおさら、対話の機会を持つ努力をすべきである。

 異なる考えの相手と対話や議論を重ねることで、核なき世界を阻む「壁」は徐々に取り払われていくはずだ。

 国会内でおととい開いた日本政府代表や各会派の国会議員との討論会は、その良い例だったのではないか。

 外務副大臣や自民党議員は、核ミサイル開発を進める北朝鮮情勢に触れ、「条約に入ると核抑止が損なわれて国民の生命が守れない」といった主張を繰り返した。

 しかしフィンさんが、条約と日本の安全保障政策のどこがどうそぐわないのか、つぶさに検証する委員会を国会に設けるよう提案すると、公明、立憲民主など与野党の複数の議員が理解を示したという。

 今必要なのは、考えが違っても、こうした対話や議論の機会を持つことではないか。

 私たち市民にとっても、フィンさんの言葉は活動の在り方を考える好機になった。

 彼女は何度となく、「市民が声を大きくし、政府にプレッシャーを」と呼び掛けていた。被爆地の体験を語り続けながら、「核と人類は共存できない」という世論を盛り上げ、政府を動かしていく地道な努力が求められていよう。

 心に訴え掛けるだけでなく、「事実に基づいた議論を」とも訴えていた。核なき世界の実現を阻む側の説得には、情理を尽くした戦略が欠かせないということだろう。

 そのためにも、被爆地は世界の市民との連帯を一層強めなくてはならない。

(2018年1月18日朝刊掲載)

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