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連載・特集

[インサイド] 核抑止の是非 日本で喚起 ICAN事務局長来日

禁止条約巡り国調査要求 政府反発「安保」前面に

 昨年にノーベル平和賞を受賞した非政府組織(NGO)「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN(アイキャン)、本部スイス・ジュネーブ)のベアトリス・フィン事務局長(35)の来日(12~18日)が、核兵器禁止条約を巡る国内議論を刺激している。政府が、署名しない理由として安全保障に米国の核抑止力が必要との主張を鮮明にし、ICANはその是非の国民的議論の喚起を図る。与野党の議員からは条約加盟の影響を探る調査に前向きな声が出始め、被爆地の若者も行動を触発されている。(水川恭輔、田中美千子、城戸良彰)

 16日、政府代表や国会議員が出席した国会内での討論会。フィン氏の条約加盟の求めを、佐藤正久外務副大臣は北朝鮮の核・ミサイル開発を挙げて拒んだ。「日米同盟の抑止力を維持しないといけない。条約に参加すれば米国の核抑止力の正当性を損ない、日本国民の生命、財産が損なわれてもいいと認めることになる」

政府・市民対話を

 同じ主張は、13日に長崎市でフィン氏と討論した外務省軍備管理軍縮課の今西靖治課長も展開。来場した被爆者や若者は質疑で今西課長に相次ぎ疑問をぶつけた。「広島、長崎の価値観と政府の政策にギャップがある。政府と市民のこのような対話が必要」とフィン氏。同じ壇上にいたICANの川崎哲(あきら)国際運営委員(49)も「ようやく議論が始まった」と受け止めた。

 昨年7月の条約制定後、政府は、保有国の交渉不参加や日本が描く核軍縮の進め方との違いを、署名しない主な理由に挙げていた。日本の条約加盟を妨げる核抑止力依存の是非を含め、どうすれば条約に入れるかの政策論争は乏しく、推進側には政府があえて議論を避けているとみる向きもあった。

 しかし、条約をてこに核抑止力依存を「恥」と訴えるフィン氏を前に、政府は核抑止力の肯定へより踏み込む形になった。「核抑止力はそもそも『正当』か。これを機に国民的に問われないといけない」と川崎氏。「広島、長崎のような人類最悪の悪事」(フィン氏)による報復を相手国にちらつかせることの反道徳性や非人道性、実際に戦争を抑止する効果への疑問から、一層の議論喚起を目指す。

 廃絶へ被爆国が率先して加盟する利点はないのか、通常兵器の抑止力では駄目なのか―。条約の推進側に政府への疑問が渦巻く中、フィン氏は日本が条約に入る意味や影響、取り得る道筋をまず国会で調査するよう要請。公明党、立憲民主党の議員らが理解を示し、民進党議員は超党派の議連結成を提案した。

 フィン氏自身は、日米同盟を保ったまま日本のための核の使用、威嚇は求めない「核抜き安保」で加盟する選択肢を提示。安倍晋三首相へ直接伝えようとしたが、政府から「日程上の都合」で断られた。今後国会でフィン氏に応える動きが進むかが展開を左右する。

SNS活用紹介

 「条約参加を最終的に決めるのは政府でなく国民」。フィン氏は広島、長崎両市での若者との対話集会などで強調し、被爆地から政府や国会に「核の傘」を抜け出て条約に入るよう求める声を強めるよう呼び掛けた。自身も子ども2人を育てながら活動を続けていることに触れ、会員制交流サイト(SNS)の活用を紹介。SNSで政治家にコメントしたり、海外に仲間を増やしたりするよう勧めた。

 広島市の集会で対話した東区の瀬戸麻由さん(26)は「周囲を巻き込むクリエーティブでポジティブで元気なエネルギーを感じた」。条約推進は、感化された若者たちの行動力にもかかっている。

核兵器禁止条約
 開発、保有、使用、核抑止政策の中心をなす「使用するとの威嚇」など、核兵器に関する行為を全面的に禁止する初の国際条約。前文で「被爆者」の受け入れ難い苦しみに留意すると明記している。昨年7月、国連での交渉会議で122カ国・地域が賛成し、採択された。米国などの保有国は会議をボイコット。日本は交渉に参加しなかった。50カ国が批准の手続きを終えた後、90日後に発効する。

(2018年1月21日朝刊掲載)

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