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連載・特集

ネットで見えぬ現実 取材 広島経済大生 ドキュメンタリー2本 映像祭入賞

証言積み上げ核心に迫る 中国残留孤児・沖縄米軍基地テーマ

 広島経済大(広島市安佐南区)メディアビジネス学科の4年生8人が、中国残留孤児と沖縄の米軍基地問題をテーマに2本のドキュメンタリー映像を制作し、2017年度の「地方の時代」映像祭で入賞した。ともに10カ月に及ぶ長期取材で仕上げた力作。事実や証言を積み上げて核心に迫る作品づくりを通し、ネット社会にあふれる一方的な情報やフェイクニュース(偽のニュース)に惑わされない眼力も磨いた。(石川昌義)

 男子学生4人が制作した「私は日本人です」(26分)は、広島市中国帰国者の会の副代表、松山鷹一さん(52)との偶然の出会いがきっかけだった。別の目的で取材した市営基町アパート(中区)の祭りで、戦時中の満州(現中国東北部)での国策開拓から始まった中国残留孤児たちの苦難を聞いた。アパートに関係者が多く住んでいることも知った。

 残留孤児たちの肉親を捜す集団訪日調査が始まったのは1981年。学生たちが生まれる前だ。「松山さんに会わなければ、広島に暮らす関係者の存在を知らないままだった」と撮影担当の堀晴輝さん(21)。撮る必要性を感じたという。

 松山さんの協力で10人以上の関係者たちを訪ねるうち、「祖国に帰還して幸せに暮らしている」との当初のイメージが思い込みだったと気付かされる。日本語を話せない帰国者が直面する言葉の壁、ごみの出し方など生活習慣の違いから生じるトラブル…。約120時間の映像からまとめた作品は、証言ににじむ本音や現実に焦点を当てた。

 医師をしていた中国での暮らしを捨て、30歳で母の祖国日本に渡った歩みを振り返った松山さんは、「生活水準を考えると後悔はある」と吐露する。残留孤児1世の女性は「家族に再会して大泣きした」と話す半面、胸に秘めたわだかまりも明かす。「母は3人の娘のうち私だけを中国に残した。なぜ…」

 中国語で会話する帰国者たちのグループをけげんに思う周辺住民の匿名の声や、祭りなどで互いに打ち解け合おうとする姿も映し出す。編集に当たった石井宏明さん(22)は「ネット検索では自分が見たいものしか見ない。取材を通し、目を背けていた現実が見えてきた」と力を込める。

訴え 胸に刺さる

 もう一つの作品「眼差(まなざ)し」(36分)は女子学生4人が制作。取材の契機は、米軍属が逮捕された沖縄県うるま市での2016年の女性暴行殺害事件を受けた沖縄県民大会で現地の女子大生が発した「日本本土にお住まいの皆さん。事件の『第二の加害者』は誰ですか。あなたたちです」との言葉だった。

 「同世代の訴えが胸に刺さった。沖縄と広島の温度差の原点を探りたい」。三上奈津希さん(22)は同級生を誘って図書館やインターネットで資料をあさった。沖縄に2度出向き、沖縄戦を経験した高齢者や、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)に隣接する沖縄国際大の学生の話に耳を傾けた。広島と沖縄で撮影した映像は100時間超。作品では、戦時中から占領期を経て今に至る民間人被害の実態と本土住民の無関心さを浮き彫りにした。

 三上さんは「ネットでは『沖縄で声を上げている人は政治的に偏った人』と決め付けるような情報があふれている。でも、実際は違う」と言い切る。

来月3日上映会

 「多くの人に接し、事実を掘り下げていく中で、ネットの一面的な情報の危うさを学べる」。作品づくりを指導した徳永博充教授は、学生たちの成長に手応えを感じている。自身は元広島テレビ放送記者。同映像祭では16年度にも教え子を入賞に導いた。「他者と真摯(しんし)に向き合う経験は、社会に出ても生きるはずだ」

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 2月3日午後6時半から、17年度の受賞2作品の上映会が広島市中区袋町の合人社ウェンディひと・まちプラザである。無料。定員100人。

(2018年1月22日朝刊掲載)

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