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イワクニ 地域と米軍基地 四半世紀前の約束 <下> ローカル・ルール

騒音・安全 再協議望む声

 昨年12月6日未明。岩国の街の静けさを米軍機の爆音が破った。低くうなるように続いた音は、米軍岩国基地(岩国市)の滑走路北端から約3キロ離れた記者が住むマンションにも届いた。枕元のスマートフォンを見ると、時刻は午前0時20分を過ぎていた。この日は午前5時ごろにも米軍機が飛んだ。

 市や山口県、国、同基地でつくる岩国日米協議会の確認事項では、滑走路の運用時間を午前6時半~午後11時と定める。時間外運用の禁止にまで踏み込んでいないが、その場合、「市に通報する」と決めている。

 ただ、時間外運用の情報を市民に公表するかどうかは米軍や市の判断次第。昨年12月の時間外運用は、6日から3日間続いた。「爆音で安眠を妨げられた」。基地の要請に応じて市が事前に周知しなかったため、周辺の住民から憤りや疑問の声が上がった。

独自は岩国だけ

 ローカル・ルール―。運用時間をはじめ、協議会の16項目にわたる確認事項は地元でそう呼ばれる。主要な航空部隊を抱える在日米軍基地の多くは、日本政府と在日米軍司令部でつくる日米合同委員会が運用ルールを定めているからだ。中でも、地元自治体が参加する協議会でルール作りをしたのは岩国だけだ。

 なぜ岩国だけ独自ルールなのか。岩国日米協議会の設置は1971年。設立の経緯について市基地政策課は、半世紀近くたったこともあり「詳細な記録がなく、分からない」という。

 独自ルール故に、地元の声を反映しやすい利点はある。岩国のように、時間外運用の際に基地が地元に直接通報するルールは他基地にはない。地元重視の取り決めと言える。

 しかし、ルールなどを話し合う場である協議会は91年を最後に開かれていない。確認事項の一部は今、形骸化し、米軍の「運用上の都合」によって守られないケースも相次ぐ。

 「不安を払拭(ふっしょく)するため、もっと積極的に運用実態の把握を」。今月16日、岩国市役所の一室。廿日市市の市民団体「岩国基地の拡張・強化に反対する広島県西部住民の会」のメンバーが岩国市の担当者に詰め寄った。

 米空母艦載機の移転により極東最大級の航空基地へと変貌する岩国基地。協議会の開催や確認事項の見直しを求める声は、この他の複数の住民団体からも上がっている。

行政の怠慢指摘

 行政の腰は重い。協議会の構成メンバーの岩国市や山口県は「必要があれば開催を検討する」と繰り返す。現時点で確認事項に大きな不都合はなく、米軍にその順守を求めることと協議会の開催は別問題、というスタンスだ。

 さらに市は「基地内に新たな渉外部門ができ、司令官と市長も年数回、意見交換の場を持つなど、以前協議会を開いていた時よりも機動的な対応が取れている」と主張する。

 「これから協議会を開くには何らかの理由が必要。『成果』も求められる」。市内部には、そんな声もある。開催に向けた基地側との調整に高いハードルがあることをうかがわせる。

 「協議会を開かないのは行政の怠慢だ」。岩国市の市民団体「瀬戸内海の静かな環境を守る住民ネットワーク」の久米慶典顧問(61)は言い切る。「米軍機が倍増しようとする今こそ、騒音や安全対策を含めた新たなルール作りが必要不可欠」と求めた。(松本恭治、和多正憲)

日米合同委員会
 在日米軍とその構成員の法的地位や基地の管理、運用を定めた日米地位協定に基づいて設置された日米間の協議機関。日本側は外務省北米局長や防衛省地方協力局長、米側は在日米軍司令部副司令官や駐日公使たちがメンバー。米軍基地の提供・返還や地位協定の運用について協議する。米空母艦載機移転に絡み、岩国市愛宕山地区に整備された米軍家族住宅も、合同委の合意を経て日本側から米側へ提供された。

(2018年1月27日朝刊掲載)
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