×

社説・コラム

天風録 『野中さんの「不規則発言」』

 「近松門左衛門さんの時代から、若狭、丹波はいつも京都の縁の下で働いたんだ」という友の嘆きを、作家水上勉はかみしめる。かねて郷里・若狭の天気予報が、京都で放送されぬ悲哀を感じていた。この古都では、同郷の人々があまた働くというのに▲きのう訃報を聞いた政治家、野中広務さんの回顧録から引く。丹波のその人は町長を足場に古都へ乗り込み、革新府政に挑む。「府だけに地方自治があって市町村はそれに隷属している」と痛感したことが転機だった▲府議や副知事を務めて引くはずが、運命とは分からないものだ。「地方を知る政治家がいなくなる」という後の首相竹下登氏の説得で、国政に打って出る▲ある不規則発言が追悼のニュースでも流れた。沖縄の米軍用地を巡る法改正を審議した国会で「この法律が沖縄県民を軍靴で踏みにじるような結果にならないように」と声を震わせた。議事録から削られたが、野中さんの偽らざる心境だったという▲訃報と同じ日、沖縄で相次ぐ米軍ヘリの不時着を巡り「何人死んだんだ」とやじった副大臣が辞表を出した。同じ不規則発言でも、その軽さにがくぜんとする。「縁の下」を知らないにも程がある。

(2018年1月28日朝刊掲載)

年別アーカイブ