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社説・コラム

社説 一般教書演説 内向き志向 未来あるか

 就任2年目のトランプ米大統領がきのう、初の一般教書演説を行った。いつもの攻撃的な姿勢こそ鳴りを潜めたものの、これまで1年の国内政治の実績を誇らしげに語り続け、「内向き」の姿勢ばかりが際立った。

 「米国第一」を改めるそぶりはまったく見られず、「米国を再び偉大にする」とまたも強調した。自国の利益にばかり執着する超大国のリーダーに、日本や国際社会は毅然(きぜん)と対峙(たいじ)すべきだろう。

 11月の中間選挙をにらんだ演説なのは間違いない。大統領の与党が敗北するケースはこれまでも多い上、トランプ氏は差別的な言動などにより自身の支持率が戦後最低レベルだからだ。

 米国のほとんどの放送局が生中継する一般教書演説は、国民へのアピールにうってつけの場である。道路や鉄道などインフラの整備で官民合わせて少なくとも1兆5千億ドル(約163兆円)を投じると、「アメ」の政策も打ち出した。危機感の表れかもしれない。

 先日の世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)の演説で環太平洋連携協定(TPP)への復帰検討を表明したばかりだが、そのことには触れなかった。不公平貿易を是正するとの訴えがかすむと考えたからなのか。「永久離脱」から軌道修正するのか、真意を測りかねる。

 そんな演説を米国民はどう受け止めたのだろう。議場で与党の共和党議員は何度も立ち上がり拍手を送ったが、野党の民主党側は冷たい視線を送り、多くが終わると拍手もせずにさっさと議場を去った。米国でかつてなく深まる「分断」を象徴する場面だった。

 その大きな理由は、移民政策などでトランプ氏が見せる排外的な姿勢である。民主党が激しく反発して先月はつなぎ予算が成立せず、政府機関の一部が一時閉鎖に追い込まれた。

 行き詰まりを自覚しているのだろうか。演説では民主党に歩み寄る移民制度改革案を示した。子どもの時、親に連れられて米国に不法入国した「ドリーマーズ」と呼ばれる若者らに市民権を与える道を開くという。しかし同時にメキシコの壁の建設などは変わりなく進める方針で、賛同を得られるかどうかは不透明である。

 演説で「私たちは一つのチーム、一つの国民、一つの家族だ」と国民融和を呼び掛けても、日々の姿勢や政策が伴わなければ、国民に届くとは思えない。人種差別や女性蔑視に対する抗議デモも続く。トランプ氏はツイッターなどでの暴言も改めるべきだ。

 内政に多く時間を割いたが、外交についての言及は限られた。しかも力でねじ伏せようとする言い方が目立った。北朝鮮に「最大限の圧力」をかけ続けると宣言し、核兵器の近代化をより強力に進めると語る姿は、やはり危うさに満ちている。

 エルサレムをイスラエルの首都と認定したことに反発する国々に、援助を打ち切るかのような発言もあった。国際社会を引っ張る超大国のリーダーのあるべき姿とはとても思えない。

 歴代の米大統領が一般教書演説で国際社会で果たすべき役割を打ち出してきたことを振り返ると、隔世の感がある。内向き志向の先に、米国の未来が開けるはずがない。

(2018年2月1日朝刊掲載)

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