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社説・コラム

社説 米の小型核開発 被爆国が歓迎するとは

 トランプ米政権が公表した新たな核戦略指針「核体制の見直し(NPR)」を、日本政府が「拡大抑止力が強化される」と歓迎した。「唯一の戦争被爆国」を名乗り、核軍縮・不拡散を主張してきた政府として、いかがなものか。

 核兵器の使用条件を緩和し、小型核開発を盛り込んだ内容である。日本政府が「被爆国として核兵器のない世界に向けて国際的な議論をリードする重要な使命がある」としてきた方針と整合性がないだけでなく、全くもって懸け離れている。

 73年前に米国が投下した原爆によって広島、長崎は核兵器の非人道性を身をもって体験している。「ほかの誰にも同じ苦しみを味わわせたくない」と廃絶を求めてきた被爆者たちの願いとも遠く隔たっていることを、日本政府は認識すべきだ。

 人類は、冷戦期の核開発競争を経て、製造、開発の過程でも多くのヒバクシャを生む核兵器は絶対悪であり、必要なのは「廃絶」だと学んできたはずだ。その延長線上にオバマ前大統領が掲げた「核なき世界」があったのだろう。

 それらを全て打ち消すのが今回のNPRである。米国や同盟国が、核兵器以外での攻撃を受けた場合に、核兵器で報復する可能性にも言及している。具体的には記されていないものの、サイバー攻撃に対する反撃なども念頭にあるようだ。

 トランプ政権は、オバマ政権時のNPRと比べ、国際情勢が悪化していることを強調する。ロシアや中国、北朝鮮などを列挙して「柔軟かつ多様な核戦力」の必要性を訴えている。

 その一つが爆発力を数キロトンに抑えた小型核兵器の開発だというのだろう。小型核は通常の核兵器と比べれば被害が局地的になるため、「使える兵器」とも言われる。だがそれは「抑止」どころか、核使用のハードルを下げるだけであり、とんでもないことだ。

 米国が核兵器を増強し、核使用を検討すれば、ほかの国が対抗策として核開発を進める言い訳にできてしまう。米国の「多様な核戦略」によって核軍拡競争が加速するのは目に見えているのではないか。

 米科学誌が先月、地球最後の日までの残り時間を概念的に示す「終末時計」の時刻を発表した。昨年より30秒進めて、残り「2分」。この時計の針を遅らせる努力こそが、核超大国や同盟国に求められよう。

 NPRに開発方針が盛り込まれた、水上艦や潜水艦から発射できる核巡航ミサイルは、将来的に太平洋に配備される可能性もある。日本の港湾に核が持ち込まれる可能性も否定できない。「持ち込ませず」も掲げる非核三原則に反するものだ。

 NPRは、昨年採択された核兵器禁止条約について「非現実的な期待に基づく」と完全否定している。それどころか米国も加盟する核拡散防止条約(NPT)体制の柱である包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准さえも支持しない考えを明記している。日本政府はCTBT早期発効を主導し、米国に批准を促さねばならない立場であることを忘れないでほしい。

 NPRは同盟国の「責任分担」も求めている。被爆国が米国の核戦力強化を支えることなど、断じて許されない。

(2018年2月6日朝刊掲載)

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