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社説・コラム

社説 陸自ヘリ住宅地墜落 訓練の実態 総点検せよ

 佐賀県神埼市の住宅地に、陸上自衛隊のAH64D戦闘ヘリコプター(通称アパッチロングボウ)が墜落、炎上した。上空で機体に異常が発生し、ほとんど制御できないまま機首から真っ逆さまに地上へ突っ込むという前例のない重大事故である。

 搭乗員2人が死亡したほか、火は住宅に燃え移り女児が軽いけがをした。小学校にも近く一つ間違えば大惨事になっていた。専守防衛や災害出動を任とする自衛隊が国民の安全を脅かすことは、あってはならない。

 安倍晋三首相は事故直後、同型機を当面飛行停止にするとともに、陸海空の自衛隊が運用するヘリ全ての整備点検を指示した。当然のことだろう。加えて、北朝鮮情勢をにらんで任務が増す中、訓練の実態がどのようになっているのか、徹底的に洗い出すべきである。

 事故機は4枚の羽根をつなぐ部品であるメインローター(主回転翼)ヘッドを飛行直前に交換していたことが分かった。飛行中、この部分に何らかの異常が生じ垂直に落下したとみられるが、部品自体や機体整備に問題があった可能性が高い。

 AH64D戦闘ヘリは、日本国内でライセンス生産していた富士重工業(現SUBARU)と国との間に調達打ち切りを巡って訴訟が起き、国が敗訴したといういわく付きの機種である。2001年に約60機の計画で導入が決まったが、今回の事故機が所属する陸自目達原(めたばる)駐屯地(佐賀県吉野ケ里町)などに13機が配備されるにとどまった。

 AH64D戦闘ヘリ固有の事情が事故の背景にあるとすれば、長く使われているため整備担当者の慣れや見落としによるヒューマンエラーが起きやすい―と専門家はみる。また、使用頻度に比して整備要員が限られ、整備の質の低下が問題視されていたとの指摘もあるようだ。

 陸自は事故調査委員会を設置したが、踏み込んだ原因究明が行われなければなるまい。

 自衛隊機の事故は近年目立っていて、昨年だけで3件の死亡事故が発生した。5月に北海道で起きた急患輸送に向かう陸自連絡偵察機の事故は、自動操縦装置を誤って解除するなどしたミスだった。8月に青森県で起きた海自哨戒ヘリの訓練中の事故は、やはり操縦ミスでバランスを崩したためだという。

 こうしたミスの背景には北朝鮮情勢の緊迫化に伴う任務の急増もあるといえよう。訓練時間が確保しにくくなって、パイロットの技量が落ちているという専門家の指摘もある。整備と操縦の技量が共に水準に達していなければ、基地周辺住民の不安が増すのは当然だ。飛行ルートも再検討すべきである。

 佐賀県では、事故やトラブルが相次いだ輸送機オスプレイを陸自が佐賀空港に配備する計画を巡って反対が根強く、山口祥義知事は受け入れの最終判断を保留している。オスプレイと共にAH64D戦闘ヘリも移駐される計画だが、今回の事故原因の究明と情報公開が行われるまでは、佐賀への配備計画全体を凍結するのが筋ではないか。

 沖縄では在日米軍の航空機やヘリのトラブルが多発している。政府は米側に再発防止を強く迫っているように見えるが、自衛隊機の安全性についても基地周辺住民の納得のゆく解決策を急がなければならない。

(2018年2月7日朝刊掲載)

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