社説・コラム

社説 文大統領への訪朝要請 核開発の放棄 譲れない

 平昌冬季五輪に沸く韓国を、北朝鮮の「ほほえみ外交」が席巻している。金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の妹である金与正(キム・ヨジョン)・党第1副部長が、文在寅(ムン・ジェイン)大統領に訪朝を求める正恩氏のメッセージを伝えたことは、日米韓の連携に大きな影響を与える可能性がある。警戒が必要だろう。

 南北対立の緩和は歓迎すべきことではあるが、米国の軍事的圧力や国際社会による経済制裁を弱めたいがために、韓国を取り込もうとする北朝鮮の思惑が透けて見える。文氏は融和姿勢を好意的に受け止めているようだが、北朝鮮の核・ミサイル開発の放棄が前提であることを忘れてはならない。

 「私が特使」と与正氏は述べて、文氏に自分の言葉が正恩氏の意思であると表明。「早い時期に会う用意がある」という正恩氏のメッセージを口頭で伝えた。与正氏自身も、「兄と会って統一の新しい幕を開く主役に」と求めている。

 文氏はその与正氏と、五輪アイスホッケー女子の南北合同チームの試合を観戦。北朝鮮の管弦楽団の公演も並んで観覧するなど融和ムードを演出した。3日間の韓国滞在中、会食を交えるなど連日面会している。事実上、国賓待遇での歓待である。

 韓国側としても正恩氏にメッセージを送る好機と捉え、厚遇したのは理解できる。しかし不安も覚えざるを得ない。というのも会談において核問題の議論は行われなかった、と伝えられているからだ。

 経済制裁などで困窮する北朝鮮としては、韓国との関係改善で局面を打開したいのだろう。五輪・パラリンピック期間中は実施を見送られている米韓合同軍事演習を中止させたい意図があるのに加え、米軍による限定攻撃も警戒しているようだ。また、核開発の時間稼ぎではないかとの見方もある。

 核・ミサイル開発などの強硬路線を、北朝鮮が変えていないのは、五輪開幕の前日に軍事パレードをしてみせたことからも疑いようがない。米国本土を射程に収めるとされる新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)も登場させていた。

 与正氏の帰国後も、北朝鮮は融和攻勢によって韓国の揺さぶりを続ける。訪韓団から報告を受けた正恩氏は、韓国側の対応に謝意を表した上で、関係改善の方向を具体的に示した―と朝鮮中央通信がきのう報じた。

 文氏の先走りを懸念する声に対して、韓国大統領府は「朝鮮半島非核化の原則や、制裁を履行する立場に変わりはない」と強調している。

 昨年の大統領就任演説で訪朝に前向きな姿勢を示していた文氏も、ここは日本や米国と分析や協議を尽くして、慎重な対応を取ってもらわねばならない。関係国と十分に検討しないまま訪朝へと動けば、北朝鮮の思うつぼとなりかねない。

 ここにきて、米国の姿勢に見過ごせない変化を、外電が伝えた。南北対話の進展次第では、前提条件なしで北朝鮮と対話する用意があるとペンス副大統領が述べたという。非核化の意思が対話の条件としてきた方針から大きな転換となる。

 事実ならば、日米韓の結束を揺るがす、ゆゆしき局面と言える。北朝鮮の核放棄へ向けて、日本は改めて米韓との結束強化に動くべき時である。

(2018年2月14日朝刊掲載)
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