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連載・特集

解剖 海上自衛隊 呉・江田島の現場から 第1部 潜水艦乗船ルポ <上> 早朝の出港

 憲法改正論議が本格化している。中でも9条における自衛隊の位置付けが大きな争点となっている。海上自衛隊呉基地がある呉市、自衛隊員の教育拠点がある江田島市の現場から、自衛隊の現在の実像や地域との関わりを探る。(浜村満大)

黒い巨体を慎重に操艦 けんりゅうに1泊乗船

 「貨物船1隻、右ふたじゅう度、さんまる、左に進む」「おも~か~じ」―。艦橋に立つ乗員がマイクに他船との距離や方角を伝える。

 海上に飛び出した艦橋が、裁ちばさみのように海を切りさいて進む。黒い巨体は呉基地を出港してすぐ難所に差し掛かった。朝日に照らし出されるフェリーや貨物船。大海原を進む時以上に、慎重な操艦が要求される。風とともに緊迫感が針のように刺す。

 1月中旬、海上自衛隊の最新鋭潜水艦けんりゅうに乗船した。呉基地から点検を受ける神戸市のドックまで約250キロを1泊2日で航行。残念ながら潜航する機会はなかったが、乗員約70人と寝食を共にした。

 呉基地は海上自衛隊が保有する潜水艦17隻のうち10隻の母港である。乗員を養成する訓練所は呉基地にしかなく、「潜水艦乗りの古里」とも呼ばれる。最も重要な任務を理解することが、呉基地を知る近道と考えた。

畳半分の空間

 出港は午前8時前。似島と江田島の狭い間を抜ける。艦橋は想像以上に狭い。畳半分ほどの空間に4人が立ち四方に目を凝らす。その後方にさらに3人が立つ。すし詰め状態の中、操艦の指示を艦内に飛ばす。

 海面からの高さは8メートル。真下をのぞくと足がすくむ。それでも周囲の大型船から見れば、潜水艦の海上に出ている部分はわずかでしかない。

 午後3時すぎ、けんりゅうから警笛が5回鳴り響いた。来島海峡付近にいた20隻余りの遊漁船のうち、1隻がこちらに走ってくる。けたたましい警笛に船はやっと止まった。興味本位で近づく民間船は珍しくないという。

重く粘る空気

 艦内は空調が効いている。ただ、空気の質が外気とは違う。調理や燃料などさまざまな臭いが混じり合い、気のせいか、やや重く、粘り気があるようにも感じる。

 さらに潜水艦の揺れ方は、これまでどの乗り物でも体験したことがない種類のものだった。かじを左右に切るたび、ローリングするように床ごとじわりと傾く。これには慣れずじまいだった。ある自衛官は「しけた時はドラム缶の中にいるようだ」という。

 午後5時20分すぎ、士官室や発令所など艦内の一部が赤い照明に切り替わった。日没を知らせ、艦外の暗闇にあらかじめ目を慣らせておくためらしい。あてがわれたベッドは、魚雷を置くスペースのすき間だった。

海上自衛隊の潜水艦
 海上自衛隊が所有する17隻のうち10隻が呉基地、7隻が横須賀基地を母港とする。「おやしお」型と「そうりゅう」型がある。「おやしお」型は日本の潜水艦では初めて船体自体をセンサーとするソナーを装備して捜索能力を向上。「そうりゅう」型は海自隊で初めてスターリングエンジンを搭載し、水中持続力に優れる。国は2021年度ごろをめどに22隻体制とする方針を示している。

(2018年2月22日朝刊掲載)

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