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カザフ被曝医療 後押し 島根大、セメイ国立医科大と交流協定

 島根大は来年1月、カザフスタンのセメイ市(旧セミパラチンスク市)にあるセメイ国立医科大と交流協定を締結する。旧ソ連時代に450回以上も繰り返された核実験の被曝(ひばく)者に対する医療の質を高めるため、医師の相互派遣や現地での検診・手術、放射線被曝に関する共同研究などに取り組む。(明知隼二)

 協定は「旧ソ連の核実験で苦しむ住民の健康維持」のため、両大学間で最新の医療技術や知識を共有するとの内容。島根大が現地の医師を受け入れて指導するほか、がん専門医を現地へ派遣し、住民の検診や手術をする。毎年医師2人程度の交換を想定する。

 同医科大が保管する被曝者のがん細胞の標本を活用し、DNA解析などで放射線の影響を調べる共同研究なども構想する。

 島根大側の責任者となる医学部の野宗義博教授(62)=腫瘍外科=は2003年から、現地で被曝者の検診を続けてきた。現地の医師を育成するため、今年8~9月の訪問では、医学生や研修医を対象に、がん治療や放射線に関する集中講義を初めて実施した。

 野宗教授によると、1991年に旧ソ連最大のセミパラチンスク核実験場が閉鎖されて以降も、周辺では乳がんや胃がんなどが急増している。「核実験が原因かどうかは厳密には分からないが、がんが増え、医療が不十分という現実がある。日本の医学が果たす役割は大きい」と話す。

 同じく現地支援を長年続けてきた、広島市南区の甲状腺専門医の武市宣雄医師(68)、広島大の星正治名誉教授(64)=放射線生物・物理学=も、島根大医学部臨床教授として協力する。

 調印式は来年1月28日、島根大本部(松江市)で、同医科大のトレバイ・ラヒプベコフ学長たちを招いて開く。

カザフスタンの被曝(ひばく)者
 カザフスタンには、旧ソ連最大で約1万8500平方キロと四国とほぼ同じ面積のセミパラチンスク核実験場があり、1949年から89年まで450回以上も核実験が繰り返された。うち100回以上は空中や地上で行われたため、放射性物質が広範囲に広がり、異常出産が相次ぐなど深刻な被害が出ている。同核実験場は91年に閉鎖されたが、今も多くの人が心臓病や血圧の病気、肺がんなどに苦しんでいる。カザフスタン政府によると、影響がある人は約150万人に上るという。

(2012年11月19日朝刊掲載)

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