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連載・特集

解剖 海上自衛隊 呉・江田島の現場から 第1部 潜水艦乗船ルポ <下> 秘密の塊

艦内撮影 厳格チェック 神戸で下船 漂う開放感

 「携帯電話とカメラを預かります」。海上自衛隊呉基地で潜水艦けんりゅうに乗船した途端、「お目付け役」の担当官からそう声を掛けられた。

 乗員ですら私物のパソコンや携帯電話、カメラは持ち込めないのだから仕方がない。潜水艦はそれほど「秘密の宝庫」なのだ。艦内では、撮影したい場面に出くわすごと、担当官に尋ね、カメラを返してもらう。

冷蔵庫も禁止

 航海中は艦内の「心臓部」の発令所は撮影が許可されなかった。モニターや計器などが並んでいるからだ。艦外の音を探知するいわば「耳」のソナー室は終始、厚い黒幕で覆われていた。

 「ここも駄目なの」。驚いたのは食堂の冷蔵庫も撮影禁止。担当官は「大きさから食材の積める量が推測でき、航海できる期間が分かる恐れがあるから」と説明する。

 甲板に出るハッチもだめだった。その厚さから、どれだけ潜れるかを推察される恐れがあるからだ。呉基地に停泊している時でさえ、ハッチにはカバーを掛けて隠している。補給長の佐藤大吾2等海尉(28)は「カバーを外す時も、他船や陸地から見られないように乗員数人が囲んで体で隠しながら作業する」と明かす。

 取材中にデジタルカメラで撮影した写真は約千枚。全てを乗員にチェックされ、約100枚はその場で削除する羽目になった。いずれも計器やハッチが写り込んでいた。

 艦長の花田耕一2等海佐(41)は「任務によっては一部の乗員しか知らない情報もある。それだけ潜水艦は隠密性を重視し、気を付けるべきことが多い」とも強調した。

朝を待ち入港

 乗船2日目の午前3時前、ドックのある神戸市沖に到着。安全のため、明るくなるのを待って午前9時に入港した。

 狭いベッドで寝付けなかった上、緊張も重なって体が重い。乗員は早速、艦内の荷物をバケツリレー方式で運び出していた。彼らの仕事はまだ続く。ご苦労さま。申し訳ないが先に帰らせてもらうよ。タクシーの座席に体を預けると、コートから艦内独特の残り香が立ち上ってきた。(浜村満大)

海上自衛隊呉基地
 約6千人の隊員が在籍する。潜水艦や護衛艦など13種38隻が配備され、種類、隻数ともに海上自衛隊の基地で最多。輸送艦や訓練支援艦、練習潜水艦は国内で呉基地にしかない。前線で活動する自衛艦隊所属の部隊に加え、造修補給所や基地業務隊などの後方支援部隊もある。2015年には全長が240メートルから420メートルに延びた浮桟橋Fバースの運用が始まり、大型の艦船の係留が可能になった。

(2018年2月24日朝刊掲載)

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