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[イワクニ 地域と米軍基地] 禁漁の湖 ごう音響く タンク投棄1週間 三沢基地周辺ルポ

安全懸念 共存共栄に影

 米軍三沢基地(青森県)のF16戦闘機が同県東北町の小川原湖に燃料タンクを投棄したトラブルから27日で1週間。特産のシジミを扱う地元の漁業者は初の全面禁漁を強いられ、被害の全容は見通せない。基地との「共存共栄」を掲げる三沢市の市民にも複雑な思いが広がっていた。揺れる基地の周辺を歩いた。(久保田剛)

 湖に薄く張った氷が、桟橋から沖まで続いていた。記者が現地を訪れたのは投棄から3日後の23日。気温は日中も氷点下。海上自衛隊大湊地方総監部(青森県むつ市)の部隊が潜水調査に入っていた。翌24日、潜水隊員らが長さ約3メートルのタンクの破片2個を引き揚げた。破片は日米地位協定に基づき、米軍がトラックで持ち帰った。

 雪交じりの寒風の中、近くの住民が規制線の外から作業を見守っていた。「いつか何か落ちると覚悟していたが…。風評被害が心配」。シジミ漁を営む沼辺勝幸さん(74)の表情は暗い。

 同湖のシジミ漁獲量は年間約1200トンと全国有数の産地だ。「今が一番の稼ぎ時。月に80万円を稼ぐ人もいる。子育て世代や住宅ローンがある人は大変だ」。ベテラン漁師の浜田征二さん(69)は仲間の苦境を代弁した。

人ごとではない

 浜田さんの自宅を訪ねると、国の補助で防音工事が施されていた。騒音はあっても基地を迷惑施設と思ったことはなかったと言う。「沖縄の米軍機の不時着や部品落下が人ごとではないと思い知らされた」

 米軍機が同湖へ燃料タンクを投棄したのは今回が初めてではない。1992年4月にも投棄され、その際はオイルフェンスを張って部分的な禁漁で済んだ。今回は全面禁漁となり、どこまで被害が広がるかは分からない。

 小川原湖漁協は22日、三沢基地の米軍司令官に抗議文を提出。全面飛行停止を求めたが、応対した米軍幹部から返答はなかった。浜田正隆組合長(76)は「湖の上空はもう飛んでほしくない」と語気を強めた。

 三沢基地は、湖の桟橋から南東へ約9キロの場所にある。米軍と航空自衛隊が共同使用する同基地で24日、最新鋭ステルス戦闘機F35の空自配備を記念する式典があった。

 「地域の信頼を維持するためにも安全確保を最優先課題として取り組んでほしい」。タンク投棄も念頭に小野寺五典防衛相が強調した。米軍機はしかし、漁協の抗議後も湖の上を飛び、ごう音を響かせていた。

 同基地の大半を抱える三沢市の人口は約4万人。米軍岩国基地のある岩国市の3分の1弱ほどだが、米軍関係者は約1万人とされ、人口の約2割を占める。基地との共存共栄をうたう同市を歩くと、市民の間にも今回のトラブルの波紋が広がっていた。

住民の賛否交錯

 三沢基地ゲートに近い商店街、アメリカ村。市が国の補助事業などを活用し、米ニューオーリンズ市の町並みをイメージして整備した。タンク投棄後初の週末も、米軍関係者や観光客でにぎわっていた。

 米国直輸入の雑貨店を営む古沢次寸(つづき)さん(70)は「三沢は米軍基地に繁栄させてもらった町。米軍に厳しく抗議すべきだが、大きな影響はない」と話した。投棄はエンジン火災に対するマニュアル通りで、被害拡大を防いだとの受け止めもあるという。

 しかし、基地近くの住民は不安を隠さない。岡三沢6丁目町内会の小泉愃司(けんじ)会長(75)は「事故の懸念は増した」と語った。「米軍がさまざまな訓練をするのは仕方ないが、地域に暮らす人への影響を真剣に考えているか? 日本政府はもっと本気で抗議を」。その訴えは、岩国基地周辺の住民の声と重なって聞こえた。

米軍三沢基地
 飛行場や対地射爆撃場など計約2400ヘクタール。三沢市域の面積の5分の1を占める。米空軍のF16戦闘機約40機のほか、米海軍のP3C対潜哨戒機などが駐留。航空自衛隊のF2戦闘機なども共同使用している。在日米軍再編では、岩国基地などの戦闘機の訓練移転の対象になり、三沢市は受け入れを容認した。

(2018年2月27日朝刊掲載)
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