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社説・コラム

社説 南北首脳会談で合意 非核化への筋書き示せ

 平昌五輪を通じた融和ムードが演出される中、韓国と北朝鮮は4月末に板門店の韓国側施設で第3回南北首脳会談を開催することに合意した。首脳間のホットライン設置についても一致し、北朝鮮は弾道ミサイル発射実験や核実験を凍結する。

 北の脅威がトーンダウンする―。その流れにひとまず安堵(あんど)してもよかろう。朝鮮半島での何らかの軍事衝突は、必ずや日本に波及する。拉致問題の解決もさらに遠ざかってしまう。

 軍事境界線に位置する板門店は国際社会では死語になった「冷戦」の象徴であり、分断国家の象徴でもある。その地で首脳会談が行われる意味は極めて重いと言わざるを得ない。

 急転直下の動きは高支持率を背景に「朝鮮半島で二度と戦争は起こさせない」と繰り返し主張する文在寅(ムン・ジェイン)政権の手腕を物語ってもいよう。韓国にとって米朝対話を始める環境が整ったという自信につながったのではないか。韓国主導で朝鮮半島の緊張を緩和させる流れを現実として受け止める必要がある。

 国連のグテレス事務総長も合意を歓迎する声明を発表し、「対話の機運を保ち、危機の平和的解決に向けた道筋を見つけるべきだ」と強調した。今回の合意が北朝鮮の「全面譲歩」かどうかは不明だが、国連制裁による経済的な締め付けが功を奏しているとも考えられる。

 だがグテレス氏の言うように「非核化」の道筋はこれから見いだすことになろう。合意の中に朝鮮半島の非核化を担保する手法についての言及はない。

 韓国側の報道発表によると、北朝鮮は自国への軍事的脅威が解消され、現体制の安全が保証されるなら核を保有する理由がないことを明確にしたという。さらに、非核化や関係正常化を巡って米国と虚心坦懐(たんかい)に対話ができる用意があるとし、対話が継続される間は核実験などによる挑発を行わないとした。

 一方で北朝鮮が核保有の正当性を主張しなくなったわけではあるまい。現在も、国内の原子炉の使用済み核燃料からプルトニウムを抽出するなど、核開発の動きを止めてはいないもようだ。国際的な孤立から脱却し、制裁緩和を目指すというなら、いったんこうした動きを慎んで誠意を見せるべきである。

 日本政府には「国際社会と北朝鮮の過去の対話が非核化につながっていない」という不信感が根強いのも無理はない。

 1994年には核開発凍結の見返りに軽水炉と重油を提供するとした米朝合意の後に、北朝鮮のウラン濃縮計画が表面化した。朝鮮半島の非核化を明記した2005年の6カ国協議共同声明を巡っても、北朝鮮がその後、核実験に踏み切った。

 ただ、北朝鮮への不信感ばかりを募らせて圧力路線に固執すれば、米朝対話が動きだした時についていけないリスクも日本にはあるはずだ。朝鮮半島の非核化への道筋を見いだせないまま南北が関係改善を急ぐことになれば、日米韓の安全保障体制にも影響を及ぼすに違いない。

 いずれにせよ、北朝鮮に「時間稼ぎ」の思惑は持たせるべきではない。来る南北首脳会談では、朝鮮半島の非核化と北朝鮮の核開発断念への筋書きを明らかにしてもらいたい。北朝鮮と米韓に対する安倍政権の外交手腕が問われる正念場でもある。

(2018年3月8日朝刊掲載)

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