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社説・コラム

天風録 『まちづくりのレール』

 車窓の太平洋を眺めながら先月、JR常磐線に揺られて北上した。鉄路は福島県の富岡駅で途切れる。その先は浪江駅まで原発事故で不通になっている。津波にのまれた富岡駅は建て替えられたが、降り立った駅前はがらんとしていた▲昨春、避難指示が一部で解除された富岡町。まもなく1年だが住んでいるのは458人で住民登録者の3・5%にとどまる。避難住民の半数が「帰還しない」という。まちづくりのレールをどう敷いていくのだろうか▲買い物や医療環境への不安も根強いらしい。それでも暮らしの基盤は徐々に整いつつある。町民有志でつくる、まちづくり会社「とみおかプラス」が生活インフラの一つ、新聞の配達業務を昨夏から担う。住宅や事業所などに250部を配る▲安全パトロールを兼ねた配達に、玄関先で待つ高齢者からは「ご苦労さま」と声も掛かる。きょうの1面は「あの日から7年」の見出しで各紙とも被災地の今を伝えているに違いない。富岡の人たちはどう読むだろう▲福島や宮城、岩手などの被災地で、あるいは遠い避難先で、今も大勢がもがいている。記事の向こうの被災者に、関心を途切れさせることなく、心通わせよう。

(2018年3月11日朝刊掲載)

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