社説・コラム

社説 緊急事態条項 憲法に明記 必要なのか

 自民党の憲法改正推進本部が、憲法に新設する「緊急事態条項」についての考え方をまとめた。大災害が起きた時に政府の権限を強め、国会議員の任期延長も可能にするという。

 だが「現行憲法では緊急事態に対応できない」といわんばかりの主張にくみすることはできない。与党の公明党でさえ「わざわざ憲法に明記するのは理解できない」と批判している。

 必要なら災害対策基本法など関連する法律の改正が先であって、それができない場合には憲法の枠内で対応すべきだろう。憲法改正は最後の手段である。それが筋ではあるまいか。

 憲法54条には「参議院の緊急集会」の規定がある。衆議院の解散で国会が閉会しているさなかに大災害などが起きた場合、その議決案件が効力を発揮する期間は限られているものの、内閣は参議院に対し緊急集会を求めることができるはずだ。

 にもかかわらず、憲法改正推進本部では、緊急時には諸手続きを経て国会議員が任期を過ぎても在任できる―という案が浮上しているのは解せない。

 なぜなら衆参両院の選挙が重なるのはまれで、参院は半数が3年ごとに改選される。しかも解散することのない参院には緊急集会の規定があるため、よほどのことがない限り、国会に空白は生じないはずである。

 条文案には任期延長の幅も示されていない。延長後の選挙日程が時の政権に有利に設定される懸念も否定できまい。自民党内からも「議員の身分保障が目的だと思われ、理解が得られない」との異論が出ている以上、考え直すべきではないか。

 さらにいえば昨年9月、安倍晋三首相は緊迫の度を増す北朝鮮情勢を「国難」の一つと捉えて衆院解散に打って出た。そのような時期に、あえて選挙戦を招き寄せた政権党の中で緊急事態条項を論じても、説得力に乏しいと言わざるを得ない。

 一方、現行の災害対策基本法は、国会の閉会中に内閣が生活必需品の統制など国民の権利を一部制限する政令を制定することができると定めている。つまり、この法律では既に内閣への権限の集中や私権の制限を定めていることが明白である。

 ところが、憲法改正推進本部の案では、こうした内閣の権限強化について、わざわざ憲法に書き込むという。「地方自治体が権限行使をためらわないように後押しするのが改憲の目的だ」というが、現行法で対応できるのに、なぜ改憲なのか。合理的な説明はいまだない。

 公明党の北側一雄憲法調査会長は「国民の権利制限の根拠を憲法に設ける必要があると思わない」と疑問視しているが、もっともだ。権力の手を縛るのが憲法であり、仮に改正するにしても、私権を制限するような規定を盛り込むことは慎重の上にも慎重を期すべきである。

 もっとも、当初は25日の自民党大会に9条などと合わせて改憲条文案を示す手はずが、学校法人森友学園を巡る財務省の決裁文書改ざん問題を受け、トーンダウンしつつある。「2020年を新しい憲法が施行される年に」という安倍首相の「日程ありき」が、性急な議論につながったのではあるまいか。

 本当に憲法を変えないと緊急事態に対応できないのか、振り出しに戻り議論すべきだ。

(2018年3月14日朝刊掲載)
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