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社説・コラム

社説 米国務長官解任 外交の混迷を憂慮する

 トランプ米大統領がティラーソン国務長官を解任した。

 両氏の間には、北朝鮮への対応をはじめ重要な外交課題を巡って確執があったとされ、更迭論もたびたび取り沙汰されていた。それでも政権の最重要閣僚であり、外交の司令塔を担う国務長官を就任1年余りで交代させるのは極めて異例という。

 しかも史上初めてとなる北朝鮮との首脳会談を5月までに行うと表明した直後のことだ。あまりに唐突で、米国の外交がさらに混迷を深めることにならないか、憂慮せざるを得ない。

 ティラーソン氏は米石油大手の経営者から就任した。政治経験はなかったものの、政権内では国際協調と自由貿易を重視する穏健派とされる。考えの近いマティス国防長官とともに、外交の常識から逸脱しがちなトランプ氏をいさめ、ブレーキをかける役割を果たしてきた。

 北朝鮮への対応では、トランプ氏が「米国第一」を掲げ、攻撃的な言動を繰り返す中、一貫して対話による外交解決を訴えた。イランとの核合意についても、破棄を目指すトランプ氏に対し、同盟国や関係国の意向を受け止め、合意の維持を強く唱えてきた。

 意見の異なる「歯止め役」がいなくなったことで、トランプ氏がますます自国第一主義への傾斜を強めないか心配だ。北朝鮮対応や通商政策を巡り、日本にとっても国益を損なうリスク要因になりかねない。

 後任に指名されるポンペオ中央情報局(CIA)長官は、北朝鮮やイランに厳しい姿勢を取る保守強硬派として知られる。トランプ氏は「(自分と)思考回路が似ている」と評した。

 それだけに米朝首脳会談が不調に終わった場合、軍事力行使に踏み切る可能性も指摘されている。イラン核合意も維持されるかどうか見通せなくなった。不透明さを増す米国の外交政策が、国際社会にとって深刻な懸念材料になりつつある。

 発足1年余りにもかかわらず、トランプ政権では閣僚や高官の辞任、解任が相次ぐ。今月に入って経済政策を仕切ってきたコーン国家経済会議委員長も辞めている。ティラーソン氏とともに国際協調派とされ、鉄鋼とアルミニウムの輸入制限に強く反対したが、トランプ氏に受け入れられなかった。

 ほかにも安全保障担当のマクマスター大統領補佐官や、政権の要であるケリー大統領首席補佐官にも更迭説が流れている。

 トランプ氏は閣僚やスタッフの人選で、能力よりも自分への忠誠心を重視するといわれる。異論を唱える人物を排除する姿勢こそ最大の問題だ。日常茶飯事のように、政権を支える主要ポストの「首」がすげ替わっていること自体、正常でない。

 気掛かりなのは、難航が予想される米朝首脳会談である。今回の混乱もあって国務省では、北朝鮮担当特別代表や駐韓国大使などのポストが空席のままだ。準備不足のまま会談に臨むのは極めて危うい。朝鮮半島の非核化への一歩となるよう態勢を立て直すべきだ。

 4月には日米首脳会談が予定されている。安倍晋三首相はトランプ氏との親密な関係をアピールしてきたが、米政権の混乱に巻き込まれないことが肝要だ。米外交の方向性を冷静に見極め、対応する必要がある。

(2018年3月18日朝刊掲載)

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