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社説・コラム

天風録 『背中の友 別れと出会い』

 学びやを巣立つ子らは「背中の友」にも別れを告げただろう。きのう多くの地域の小学校で卒業式があった。6年前、入学した時にランドセルが歩いていたような姿を思い出して、わが子の成長に目を細めた保護者も多かったのではないか▲きょうは、ランドセルの日である。卒業式の時期で、日付の3・2・1を足すと小学校に通う6年になることから。背負い続けた相棒にありがとうの気持ちを表す日に、と決めたそうだ▲福島第1原発が立地する福島県大熊町の取材で見た光景を思い出す。全住民が町外に避難した後の小学校で、教室の机や床に多数のランドセルが置き去りにされていた。想像もしない出来事に遭遇し、背中の友を連れて行くこともかなわなかった▲原発事故から7年が過ぎた。持ち主は今は社会人や大学生、中高生になっているはず。そこに避難し、どんな小学校生活を送っていただろう。新たな背中の友には巡り会えたのだろうか▲世間では、早くも来春向けのランドセル商戦が始まっていると聞く。就活や婚活のように、お目当てを探すのを「ラン活」と言うそうだ。つつがない日常に感謝しつつ、福島の光景もずっと胸に刻んでおこう。

(2018年3月21日朝刊掲載)

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