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核軍縮へ「橋渡し」を 賢人会議、外相に提言書

 核軍縮の方策を探る外務省の「賢人会議」は29日、各国が取り組むべき課題をまとめた提言書を河野太郎外相に提出した。河野氏は、4月23日にスイス・ジュネーブで始まる核拡散防止条約(NPT)再検討会議の第2回準備委員会に出席し、提言の内容を議論に反映させたい意向を示した。

 提言書は7ページ。核兵器保有国、非保有国双方の専門家たち16人がまとめた。冒頭で、核の非人道性を理由に核兵器禁止条約を推進している非保有国と、保有国やその同盟国との間で「対立が先鋭になっている」とし、互いを批判しない「礼節ある議論」を取り戻す必要があると指摘している。

 両者を橋渡しする具体的な取り組みとして、保有国に核軍縮の交渉義務を課すNPT体制の強化に向け、保有国が核戦力の透明性を高めるよう提言。保有国が同盟国と協力し、安全保障政策で核兵器の役割を減らすよう呼び掛けている。核兵器が削減されているかを検証する仕組みをつくる必要性も強調した。

 核抑止が安全保障に有益か否かについては、国家間で考え方に根本的な違いがあると指摘。核廃絶を目指すためには、認識の違いがあることを認めた上で議論する場を設けるべきだと訴えている。

 賢人会議の白石隆座長(前政策研究大学院大学長)たち4委員がこの日、外務省で河野氏に提言書を手渡した。河野氏は「有益な内容だ。事情が許せば準備委に出席し、提言を参考に、日本の立場を訴えたい」と述べた。

 賢人会議は昨年11月に広島市で初会合を開催。今月26、27の両日に東京都内であった第2回会合を踏まえて提言をまとめた。2018年度は、核軍縮を巡る中長期的な課題を中心に議論を続ける方針でいる。(田中美千子)

■賢人会議が提言した主な内容

・核戦力の透明性を高めるなど核拡散防止条約(NPT)体制の強化
・安全保障上の核兵器の役割を減らす方法を考える
・効果的な核軍縮の検証メカニズムの構築
・核戦争に勝者はなく、戦われてはならないことの再確認
・核保有国は核使用の脅威を基礎とした威圧的行動を控える
・国家存立の究極的な状況で限定的な核による威嚇や核使用がありうるのかどうかなどを巡る対話の場の設定

【解説】被爆者 物足りぬ内容

 賢人会議の提言は、NPT体制の強化などを記す一方、昨年7月に制定された核兵器禁止条約へ将来的でも加盟を促す取り組みなどは直接入らなかった。禁止条約に背を向ける保有国を加盟に導くことを核兵器廃絶への「橋渡し」と訴える広島の被爆者たちには物足りない内容と言わざるを得ない。

 それでも、賢人会議を主催した日本政府には有言実行が求められる。核軍縮を巡る「対立」は、NPTの核軍縮義務にもかかわらず、保有国が自ら唱える段階的な削減すら十分果たさないことに対する、多くの非保有国の不満から生まれている。今回の提言が求める双方の信頼醸成には、保有国から削減の実行を引き出さねばならない。

 さらに提言は、保有国が「核の傘」の下にある国と協力し、安全保障上の核兵器の役割を減らすよう求める。核兵器の役割を増やす姿勢の米国の新たな核体制の見直し(NPR)を「高く評価」している日本政府は、しっかりと提言を受け止め、「傘」に頼らない安全保障を検討すべきだ。

 同時に、禁止条約を推進する被爆地には提言の足らない点を補う発信が求められる。平和首長会議は保有国に加盟前でもオブザーバーでの条約会議への参加、広島県主導の有識者会議は通常兵器による抑止など具体提案をしている。市民を巻き込んだ形で原爆被害の非人道性を伝え、保有国を条約加盟に導くための地道な訴えが鍵になる。(水川恭輔)

(2018年3月30日朝刊掲載)

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