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連載・特集

イワクニ 地域と米軍基地 艦載機移転完了 <上> 食い違う日米の説明

「運用」優先 浮き彫り

 米軍岩国基地(岩国市)が新たな局面を迎えた。厚木基地(神奈川県)の空母艦載機約60機を岩国へ段階的に移す計画が3月30日、完了した。120機を抱える極東最大級となった基地が地域に及ぼす影響は、これから本格化する。昨年8月に始まった移転を振り返り、「基地のまち」の今を報告する。

 3月26日、岩国基地そばの川沿いの土手。朝から報道陣や市民たちが、カメラを手にずらりと並んでいた。戦闘機が頭上に飛来するたび、一斉にレンズを向ける。最後のFA18スーパーホーネット戦闘攻撃機2部隊(24機程度)の移転開始日の目安として中国四国防衛局が公表した「24日」の2日後。午後5時33分、1機が着陸した。

 2部隊がいつ到着するのか。「米軍の運用」を理由に詳細は分からず、現地で確認するしかない。中国新聞は24日以降、朝から日没まで双眼鏡や望遠レンズを使い、離着陸を繰り返す戦闘機の中から、機体番号を頼りに新たに移転するスーパーホーネットを探す作業を続けた。

 その作業は31日、唐突に終わった。同日午後、防衛局は市などに「30日に完了したと米側から連絡があった」と伝えた。しかし、その時までに中国新聞は、半分程度の13機の飛来しか確認していなかった。

 防衛局は、2部隊が28~30日に移ったと市などに説明。しかし、在日米海軍司令部(神奈川県横須賀市)は、中国新聞の取材に26日の1機も「移転した」と明言し、その前にも何機か移っていたことも認めた。

 移転計画を巡っては、こうした国と米側の説明の食い違いが相次いだ。そもそも計画のスタート時期について双方の見解は異なる。

 司令部は、第1陣の早期警戒機E2D部隊について「昨年2月に到着し、岩国に移駐した初の艦載機」と発表。だが、その段階で市は移転を容認していない。防衛省は昨年2月の飛来を「配備前訓練」、昨年8月9日を「移転開始」とした。

 なぜ食い違うのか。防衛省地方調整課は「米軍と頻繁に調整し、合意したタイミングと内容で地元に説明している」とするが、国の説明も「米軍の運用次第」に終始しがちだ。

 「米側から情報が入り次第、関係自治体に伝えるという国のスタンスを信じるしかない」。岩国市の福田良彦市長は強調する。

 国が当初、5月ごろとした移転完了時期も前倒しされた。その理由も「米軍が運用状況を総合的に判断した」(防衛局)。

 前倒しについて、NPO法人ピースデポ(横浜市)の梅林宏道特別顧問(80)は「軍人らを受け入れる住宅の完成や機体整備などを担当するクルーがそろうタイミングなど、実利的な要因が大きいのではないか」と言う。

 基地監視団体リムピース共同代表で、厚木基地の艦載機運用を調べてきた金子豊貴男・相模原市議(68)は、1日に始まった米韓合同軍事演習の期間短縮なども影響したとみる。「訓練経費の削減など、複数の理由が重なった可能性がある」と話す。

 なし崩しの移転―。同じくリムピース共同代表の田村順玄・岩国市議(72)はそう批判する。「国は米側と突っ込んだやりとりをしていないのでは。それを追及しない市の姿勢も問題だ」

 移転を通じ、米軍の事情が優先される現実と、厚い軍事機密の壁が浮き彫りになった。基地近くに住む60代の自治会長は漏らした。「もし事故やトラブルが起きたら、国や市は本当に米軍と渡り合ってくれるだろうか」(久保田剛、松本恭治、藤田智)

【米空母艦載機の岩国移転を巡る主な動き】

2005年10月 日米両政府が艦載機の岩国移転を含む在日米軍再編の中間報告         に合意
  06年5月  日米両政府が在日米軍再編に最終合意
  10年5月  約1キロ沖合へ移設した米軍岩国基地の新滑走路運用開始
  12年12月  国内2カ所目となる軍民共用の岩国錦帯橋空港が開港
  13年1月  国が移転時期について、3年程度遅れて17年ごろになる見込         みと岩国市と山口県に伝達
17年1月20日 国が市と県に、移転開始時期が「早ければ7月以降」と伝達
   6月23日  福田良彦市長が移転容認を表明
   8月9日  移転第1陣のE2D早期警戒機5機が到着
  11月28日  第2陣のFA18スーパーホーネット戦闘攻撃機2部隊、E
         A18Gグラウラー電子戦機部隊の移転開始。国は12月1          日に第2陣の移転完了を市などに伝達
  12月5日  国が当初、「18年1月ごろ」の移転としたC2輸送機が到着
18年3月23日  国が残るスーパーホーネット2部隊について「早ければ24          日ごろから移る」と市と県に伝達
     28日  在日米海軍司令部が、残る2部隊を「今週中に移転する」と          発表
     31日  国が「全ての移転が30日に完了した」と市と県に伝達

(2018年4月3日朝刊掲載)

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