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イワクニ 地域と米軍基地 艦載機移転完了 <下> 市民目線の「共存」課題

関係者 人口の1割弱

 米軍岩国基地(岩国市)の正門から北西に約400メートル。2日、真新しい看板が掲げられた外貨両替所に、基地関係者とみられる外国人や家族たちの姿があった。空母艦載機の移転を見据え、東京の企業が3月中旬にオープンしたばかり。「米軍関係者が増える岩国は魅力的なマーケット」と同社の担当者は言う。

 厚木基地(神奈川県)からの艦載機約60機の移転は3月30日に完了した。市には今年後半までに、約3800人の軍人や軍属、家族が移り住む。1万人を超える米軍関係者は、市の人口の1割弱ものボリュームになる。

 2012年に開港した軍民共用の岩国錦帯橋空港、17年11月、同市愛宕山地区にオープンした野球場「絆スタジアム」…。基地のまちは、移転に絡む施設整備で大きく姿を変えた。一気に増える「隣人」の受け入れに、身近な暮らしの風景も少しずつ変化している。

 外貨両替所近くのスーパー「中央フード川下店」。店内に入ると、英語を併記した案内板が目立つ。昨年11月の移転リニューアル後、食料品を買い求める米軍関係者の姿が日常となった。米国人に人気の高い有機野菜を充実させるなど品ぞろえにも気を配る。

 「基地との共存」。折に触れて岩国市の福田良彦市長が口にするこの言葉は、14年12月策定の市総合計画に初めて盛り込まれた。福田市長は昨年6月、「審念熟慮した結果」として移転を容認。市はその後、大規模な日米交流イベントを相次いで開き、親善ムードを盛り上げている。

 3月18日には、市が絆スタジアムで「日米親善リレーマラソンin岩国」を初めて開催。基地も後援し、基地関係者と市民たち計1610人が参加した。

 こうした交流を歓迎する声は多い。市内の主婦(36)は「子どもの幼稚園に基地関係者のお子さんが通っている。子どもの国際的な感覚も養えるのでは」と期待をのぞかせる。

 市は今月、基地を活用した英語教育の推進室を新設し、検討を本格化させる。防衛省の交付金を使って公立小中学校の給食費を無償化し、防犯灯の電気代全額助成などの事業も展開する。他の自治体にはない、基地を生かしたまちづくりへの動きを加速させる。

 米軍機120機を抱える極東最大級となった岩国基地。昨年末、移転第2陣のジェット機部隊が移って以降、基地周辺の騒音は激しくなった。「安心安全は担保されていない」「基地への依存が強まる」との批判も市民には根強い。

 「基地がないに越したことはないけど移転は完了してしまった。共存していかないと」。3日、絆スタジアム周辺を訪れていた市内の主婦(68)は言う。「基地やまちがどう変わっていくのか。実感はまだ湧かない」。その上空では時折、「ゴー」という低音が響き、米軍機の編隊が飛び交っていた。

 基地が立地するメリットを生かす「現実的な対応」を選んだ岩国市。市民が納得できる「共存」をどう実現していくのか。岩国基地が極東最大級へと変貌した今後、市の責務はますます重くなる。(馬上稔子、藤田智)

(2018年4月4日朝刊掲載)

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