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社説・コラム

『潮流』 基地による「微熱」

■岩国総局長 小笠喜徳

 基地がある限り続いている微熱 米司定生

 本紙山口版の文芸投稿欄に載った川柳である。

 3月末、国は神奈川県の米軍厚木基地から岩国市の岩国基地への空母艦載機移転完了を地元自治体へ通知した。同基地の所属機は約120機に倍増し、極東最大級の航空基地となった。

 艦載機移転は昨年6月、岩国市の福田良彦市長と山口県の村岡嗣政知事が容認し、一気に進んだ。特に市は「基地との共存」を唱え、米軍との交流行事や英語教育の推進など、基地があることを生かす施策を進める。国策への現実的な対応は、地域に巨額の補助金などをもたらした。

 一方で移転は、航空機事故や米兵による事件などの恐れを高めた。基地があることにより、見返りもリスクも抱える岩国。「微熱」を感じる要因だろう。

 これから求められるのは、日米間、市・県と基地間の意思の疎通と交渉力、そして情報公開だ。昨年夏から3陣に分かれて実施された艦載機移転では、その都度、国と米軍の発表や実際の飛来内容などが食い違った。日米間の連絡体制に疑問符が付き、市民への情報は不十分だった。

 「明日は訓練のため騒音が増える見込みです」「空母出港に伴い艦載機は当面不在で、騒音は緩和されます」。運用を公表しない米軍の立場からは外れても、もしもこんな広報があれば、突然のごう音に悩まされる住民の不安も少しは和らぐのではないか。

 基地人口は約1万人となり、今後、市民レベルでの日米の関わりはさらに深まる。だからこそ、市、県、国は今以上に米軍や基地の動きを確認し、速やかに住民に伝えてほしい。

 住民が感じる「微熱」には、対症療法としての安心安全対策を続けるしかない。事件事故の一つでも起きれば「高熱」に悩まされることになるのだから。

(2018年4月10日朝刊掲載)

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